「ほんとに食べてもいいと思う?」道端に追いやられた、何年かぶりに積もったそれが陽を浴びてちらちら光っているのを見つめていると、私と同じようにしゃがみ込んで見ていた友人がそんなことを言った。友人へ顔を向けると至極真面目そうにこちらを見ている。うん、なるほど。「ラーメンでも食べに行こうか」
// 雪
暗闇をおそろしいと思ったことはなかった。何もない所から生まれるものはないと知っていたからだ。ひとりで生きることに疑問を抱いたことはなかった。最初からわたしはひとりなのだから。いつの日からかわたしの手を取るあなたがいた。ふたりは陽だまりの中にいた。何もない所から生まれるものはないはずだった。暗闇はふたりを知ったわたしに孤独を教えたようだ。
// 寂しさ
触れ合って互いの熱を分け合うように、きみと分かりあえればいいのに。ひたすらきみに注ぐばかりの視線から、惜しみない情を伝えられるならいいのに。止めるべくもないきみへの想いが、勝手にあふれ出てすべてバレてしまえばいいのに。自分から踏み出す勇気のないおれは、結局きみの人生のその他多数として役割を終えるのだろう。
// 心と心
あそこは僕の特等席なんだ、ってこっそり教えてくれたあなたの表情は、秘密を共有してくれる小さな子どもそのものだった。放課後、誰もいなくなった教室の、後ろ側の壁に沿って備え付けられた、胸の高さの棚。窓際の特等席に腰掛けてみれば、なるほど。すこし空気が違うみたいだ。
// 部屋の片隅で
「もしもし、そこのお姉さん」繁華街の眩さに慣れてしまうと、建物同士の間──せまい路地裏なんかは、バックヤードから漏れる程度の明かりしかない。雨が降り光が曖昧に反射する地面の先、とくに暗く見えるそこに、濡れねずみになった男がいた。道路に面した明るいこちら側と、男が座り込んでいる影の混ざり合ったそこは、対極に思えた。僅かに当たる明かりが、男のひどく美しく整った恐ろしさすら感じる容貌を照らしている。「おれを一度拾ってみてくれないかな」
// 光と闇の狭間で