『私の名前』
そりゃ知ってるけど…
呼んだことないな
だって名乗らないし、
隠しておきたいんだと思って
だから名前を訊かなかったことで
あんなに傷つけてたと知らなかった
そりゃちょっとは呼んでみたいけど…
今更恥ずかしいしな…
『視線の先には』
スマホとモニタ。途中から保存されたトーク履歴。ナポレオンケーキに、解くのがダルい氷のパズル。
悪魔が落とした鏡の欠片が瞳に刺さって、私には見えないものばかりになってた。そんなことは言ってないし、そんなことは考えてない。私も相手も足りない何かを勝手に見つけて補完して、作り上げたのはその人の瞳にしか映らないその人だけの鏡面世界。同じ世界に立てなくなってて言葉も違って通じない。お互い相手に合わせてるつもりで、そんな相手はどこにもいない。思い込みの中の相手を見つめて全員カラカラ空回ってた。
届いたサムネ、はじめは一つも開かなかった。きっと揶揄うんだと嫌で怖くて嫌だった。歌に作品以上の意味なんかない。そう、意味なんかなかったから、流して見てたら欠片が融けた。正直どうかと思うやり方だけどね、あなたがしたならこうかは ばつぐんだ!だって、私たちはずっとそうやって遊んで過ごしてきたんだから。
二人だけなら始まることさえなかったただろう。
三人だから絡まるように取り持つ仲だ。
いつまでもこんな時間が続けば良いのだろうが、
さすがにそんな欲張りな。
約束は約束だから、あと幾許の命で抗おう。
手探りで拾い集めて未来に繋ぐ過去からの声。
一の言葉を全の言葉の鍵穴として詰め込んで。
『私だけ』に伝えたいのだ、
私達が隠した歌声を。
見つからなくとも仕方ない。
答えがあるとは言ってない。
期待通りと往かないだろう。
忘れているならそれまでだ。
在るのはいつでも結果だけ。
お前の心はお前にしかわからない。
だが、私達も心は自由だ。
そうだろう?
そうやってはじまったんだよ、
出会った頃にしてた会話
もう話題にも上らない
叶えてやる代わりに出した条件
一番はじめに交わした約束
彼女はもう覚えていない
それから過ごして結んだ約束
彼女はその残酷さをわかっていない
戻らない幸せは彼女が望んだもので出来上がる
『遠い日の記憶』
『空を見上げて心に浮かんだこと』
ファフロツキーズ。魚や蛙が空から降ってくる怪雨のことで、竜巻が海から巻き上げて遠い土地まで持ってくるらしいよ。旧約聖書では天罰の一つで蛙を降らせるけど、アメリカの諺では絶対起きないって意味で「蛙が降る」って言葉がある。つまり、絶対起きないって油断してることも条件次第で発生する。
別に悲劇に浸って自己憐憫してるわけじゃないんだけど、そう見えたならそうだって話。生きるの下手ってわかってるから、良い顔しながら来るもの拒まず応じてたら迷い込んでた袋小路で。人間相手に好きも嫌いもありはしないし、心は慣れてて無視できるって思ってたら、身体は軋んで無理するなって壊れただけ。
自分のことを大切にしろって話ならその通り過ぎて言葉もないけど、蛙に備えて傘を指す人はいないと思うし、蛙だって自分が空飛ぶなんて思わないでしょ。ただそれまでの私にとって、蛙ってのは中身を知るため解剖するものでキスする相手と気づいてなかったって、空にふっ飛ばされて知ったけど。