『梅雨』
肌に纏わりつくべっとりとした湿度。ねっとりと垂れ下がる曇天と立ち籠める地面の匂いに囲まれた蒸し風呂のような結界空間。あの暑さと不快さの多重攻撃は体力を根こそぎ奪って消耗戦を挑んでくる。
それでね、北海道に梅雨はないって聞いて、祝日のない6月の週末を使って北へと逃げたことがあるの。快適な避暑地へ。そしたらさ、寒いの。とても寒いの。半袖でいられないくらい冷たくて、しかも乾いた外気の中をしとしと雨が降ってるの。リラ冷えっていうんだってグーグル先生が。北海道はライラックの咲く時期に梅雨が来て気温を一気に下げるんだって。フランス語でライラックをリラっていうって。へー、これがそのリラかぁって有名な大通り公園歩いて、すすきののニッカ看板ちょっと眺めて、あるんじゃん梅雨って。週末の間ずっと暗く冷たい雨の中を厚手のパーカー着てちょっと泣きそうな気分で彷徨って帰ったの。
空港降りて、じっとりとしたあの気持ち悪い熱気が出迎えてくれて、これこれ!こういうのでいいんだよ!って。だけど3日もしたらそんなわけないだろ!って。
またそんな季節が来るんだねー…
『無垢』
お前が持ってきた酒を飲む約束をしていた、というのはあいつの嘘だ。
だが、みんなで飲み比べをしたことは覚えている。
美味いものを食べ、幸せを分かち合う。
出会った頃から私達はそうしてきた。
実のところ私はあまり酒は飲まない。
だが、嫌いではない。
美味い酒なら交わしたい。
初夏に出会い、冬に別れ、こうして初夏にまた出会う。
だから次は、お前とも無垢の酒を飲んでみたい。
今度は私が持っていこう。
『終わりなき旅』
適当に話を合わせて、適当に遊んで、適当に喜ばせておけば飽きて終わる
終わりがないってことはない
そんな気分にはなるけどな
終わりを迎えたのなら、もう一度やり直せばいい
どうせとっくに壊れてる
『「ごめんね」』
謝ることが多すぎると何を謝るんだかわからなくて何も謝れなくなるのかもね。頭の中でずっとごめんごめんって叫んでるとき、実は一度も言葉にはなってないことに気づかなかったりする。いろんな理由で言葉にしない小さなごめんが積み重なって、胸いっぱいに広がった罪悪感や悲壮感で苦しくって辛くって。とにかく君から逃れたいんだ、こんな気持ちでいたくないんだって、自分の中の苦い苦い感情を味わうので精一杯ですって顔してたりする。
そんな顔見せられてたら、諦めるしかないし忘れるしかないし。そうじゃなければ、普通は怒るし、険悪になるし、どんどん嫌いが進んで、お互いの嫌なところばっかり拾い合うようになる。そのうち、ああ、もう、いいや、こんな奴に謝らなくってって関係になる。
だからひとまず、そうなる前に。
『半袖』
何故着ないのかと問われたら、
単純に、訳ありだ。
もちろん、暑い。