帽子をかぶって1人歩く帰り道を
まだ幼かった私は少しばかり怖く感じた。
でも1人で家まで帰れたのは母の言っていた言葉
「帽子は自分を守ってくれるんだよ」
子どもの私は単純で帽子があれば無敵だった。
小さな勇気すらも臆病で僕から出たがらない。
そしてまた少しだけ後悔する。
もし、私があのとき右の道では無く左を選んでいたら。
もし、私が受験する学校を変えていたら。
もし、私が違う親から産まれていたら。
こういう平行世界、所謂パラレルワールドにもそれぞれの世界があるのだろうか。
もしかしたら私たちは漫画の中の世界の住人かもしれない。
もしかしたら私たちのいる宇宙はなにかの微生物の1部かもしれない。
本の中の物語は終わりを迎えてもその世界は消えてない。
結局どの世界も終わりなんてないのだ。
【終わらない物語】
「美味しいよ!」
そう言いながら私の大失敗した料理を食べてくれる彼。
残していいと言っても美味しいと聞かない。
嬉しさや恥ずかしさが混じった感情になってしまう。
それももう何十年も前の話。
「ごめんなさいね」
「うまいよ」
私は年老いて認知症というものになってしまったらしい。
今日も味噌汁に出汁を入れ忘れたり、炒め物に味をつけるのを忘れた。
台所から調味料を持ってきて入れようとしても彼は拒む。
「うまいからこのままでいい」
「ずっと嘘が得意なのね」
『優しい嘘』
瞳をとじた時に見える景色はきっと人によって異なる。
人は目を閉じたあと残像を見るらしい。
直前まで見ていた景色を記録しそれを見てしまうんだとか。
ならば人は死ぬ時に目を瞑ると残像を見ながら逝くのだろうか。
それとも何も無い暗いまぶたの裏を見るのだろうか……。
最後は好きなものの残像を見ながら逝くのも良いだろう。
それか愛する人と同じアイゲングラウの空間に閉じ込められようか。
私はあなたと同じがいい。