もし、私があのとき右の道では無く左を選んでいたら。
もし、私が受験する学校を変えていたら。
もし、私が違う親から産まれていたら。
こういう平行世界、所謂パラレルワールドにもそれぞれの世界があるのだろうか。
もしかしたら私たちは漫画の中の世界の住人かもしれない。
もしかしたら私たちのいる宇宙はなにかの微生物の1部かもしれない。
本の中の物語は終わりを迎えてもその世界は消えてない。
結局どの世界も終わりなんてないのだ。
【終わらない物語】
「美味しいよ!」
そう言いながら私の大失敗した料理を食べてくれる彼。
残していいと言っても美味しいと聞かない。
嬉しさや恥ずかしさが混じった感情になってしまう。
それももう何十年も前の話。
「ごめんなさいね」
「うまいよ」
私は年老いて認知症というものになってしまったらしい。
今日も味噌汁に出汁を入れ忘れたり、炒め物に味をつけるのを忘れた。
台所から調味料を持ってきて入れようとしても彼は拒む。
「うまいからこのままでいい」
「ずっと嘘が得意なのね」
『優しい嘘』
瞳をとじた時に見える景色はきっと人によって異なる。
人は目を閉じたあと残像を見るらしい。
直前まで見ていた景色を記録しそれを見てしまうんだとか。
ならば人は死ぬ時に目を瞑ると残像を見ながら逝くのだろうか。
それとも何も無い暗いまぶたの裏を見るのだろうか……。
最後は好きなものの残像を見ながら逝くのも良いだろう。
それか愛する人と同じアイゲングラウの空間に閉じ込められようか。
私はあなたと同じがいい。
あなたへの贈り物は何にしよう?
名前も顔も分からない画面の向こうの人達はいつも言葉を紡いでる。
インターネットという無限に広がるコミュニティを経て今日も私たちは繋がっている。
人のものを羨むこともあり、憎く思うこともあり、誰かを傷つけてしまうこともあるだろう。
それでも皆、言葉を紡いで人と繋がるのを辞めない。
今度は私が繋げなきゃ。
画面に手を伸ばして今日も今日とてあなたへの言葉の贈り物を作成する。
これを読んでいるあなたへの贈り物を。
羅針盤が狂った。
どうやら僕たちはここまでらしい。
ここがどこかも分からない。
ただひたすら羅針盤の針を目印に歩いていたがもはや食料も尽き、あとは残りの体力がどれだけ持つかのみになった。
ゆっくりと、だが確実にすぐ側まで近づいてる死に恐怖を感じる力も残ってない。
乾いた床に倒れる。
隣に同じように君が横たわった。
「ごめん」
乾いた口から振り絞るように彼が言う。
声を出したかった。
謝らないでくれ、僕は君と一緒に旅をしたかっただけだ。
着いてきた僕のせいだ。
そう言いたかったのにもう力が出ない。
最後に振り絞って声を出す。
「君を1人で逝かせなくてよかった」
返事が聞こえない。
愛する友よ、もうすぐそっちに行くよ。
まだ暖かい彼の手を握って目を閉じた。