溢れる熱気に圧され言葉を失う。
その熱狂は私が愛していた美徳の様だった。
そこに恐怖はない。
彼らは偉大ではなかった。
だがどんな偉業よりも忘れてはならない。
ありがとう。
私ではきっと成し得なかっただろう。
賛美と祝福を込め拍手を送った。
[愛と平和]
生まれてからずっとこの時が続くと思っていた。
母との記憶。
小学校での記憶。
中学へ行って高校に行った。
全部終わるとは思わなかった。
あと数ヶ月で16歳を捨てるこの身体。
記憶に固執しすぎて目の前のものを捨ててしまった。
ただ青い空気。
吸うことさえ出来ずにもがくばかり。
[過ぎ去った日々]
私は死んだ。
理由は至極単純なもので
信号無視の車にハネられるというものだった。
では何故死んだ私が現世にいるのか。
霊というのは49日は現世に残れるのだそうだ。
私はそんな摩訶不思議な状況に、
そんな年齢でもないが好奇心が湧いてしまったのだ。
まずは病院へ行った。
集中治療室の中で冷えた私の手を握りながら
私の妻が泣いていた。
次に私をハネたやつの所へ行った。
丁度裁判をしていて中々に酷い額を請求されていた。
何日か日の昇るのと沈むのを繰り返した。
金を払って火葬して、
金を払って葬儀して、
その葬儀で金を受け取り、
ハネたやつからの金も受け取り、
金を払って墓を作る。
不幸な訳ではなかった。
ただ幸せかと言われても頷けない。
このまどろっこしい感覚を私は初めて味わった。
私という存在が金に埋もれていく気がした。
ああ、あの狭い中だときっと自然に還る事もできない。
喪失感が残った。
妻は相変わらず思い出しては泣いて、
命を奪ったものに憎しみを向ける。
少ししたら落ち着いて、
温めたご飯に箸をつける。
人はこんなにも呆気ないのだろうか。
もう無い胸に穴が空いたようだった。
[お金より大事なもの]
とある文豪の様に格好をつけたい。
好意がどうも苦手で人付き合いが下手な俺。
図書館で偶然見かけた背表紙に引かれ頁を捲った。
嘘か真か諸説はあるが、美しいと思った。
俺が心の底から愛せる他人を見つけられたとして、
なんて言うのだろうか。
[月夜]
銀河を見る夢を見た。
朝焼けに照らされたそれは
どんな恒星よりも輝いていた。
はしゃいで身を乗り出した。
冷たい気配を纏った地面。
それは海だった。
青く輝いていた。
この世の何よりも青かった。
[絆]