哀愁をそそる
ああ、夢か。
そう思えたのは目に映る幼い時によく見た風景。
すっかり見違えた街
そこはもう私の知っている姿ではなかった。
生い茂っていた木々は取り払われ、代わりに新築マンションや建設中であろう骨組みが立派に聳え立つ。
閑静な住宅街であった場所は、面影の跡形もなく盛況に賑わっていた。
それもそうだ。あれからもう10年も経ったのだから。
当たり前の事実に少し、ほんの少しだけ胸がキュウと締まる。
私だけが知っていた、秘密基地。
会いたかった人達。
何も変わらないあの頃の姿で時間を止めたまま、
思いだけを胸に馳せて。淡い期待も夢の中に溶けていく。
日常のぬるい温かさ、頬を撫でる風の感触はやけに鮮明で。それでいて曖昧で。
そして色褪せて、今の記憶に塗り替わっていく。
混ざって。混じって。
全てが流れるように変わっていく。
周りも。私も。
「…あれ、どうした私」
洗面台の鏡に映る自分は、普段見慣れた自分ではないようで。
ポツリと一筋、涙が頬を伝っては落ちて行く。
「…うん、頑張ったよなぁ。頑張った。よく乗り切った!偉いぞー!」
優しく、優しく自分の頭を撫でる。
そうすると、不思議と涙がじわり。
自分でも案外気づかないものだ
忙しいからピリピリしてるもんね、仕方ない
今朝嫌なことがあったらしい、仕方ない
分かっている。
先輩に嫌味を言われたからって、毎日仕事を他人任せで理不尽に怒鳴られたからって。
私はそれでも上手くやっていけたはずだ。
それなのに何故。
以前はそこまで気にならなかったことが、一つまた一つと心に黒いしこりとなって、気持ちだけがひどく重たく沈んでいくのだろう。
こんなに脆かったっけ、年をとったせいだろうか
「大丈夫。きっと、大丈夫。」
そう話しかけるのは
どうしようもなく不安に感じていたからか。
はーーーっと大きく息を吸って
勢いよく顔を上げる
目元にタオルを押しやれば
洗い立ての心地の良い暖かな香りが鼻をくすぐった。
(書いたはずなのに、いつのまにか寝ていたよ…