神様へ。
願いが叶うのなら、菜々香の病気を直してあげてください。とても苦しんでいるんです、ずっとずっと。僕はどうなってもいいです。だから、菜々香を元気にしてください。どうか、どうかお願いします。
「ほんとに、完治したんですよね?」
「はい。私たちも驚きました。よかったです。学校生活にも支障は無くなるでしょう。」
「やった、ありがとうございました!!」
私は病院を出た。青空と風が気持ちいい。
「あ、春輝のところ行こ、心配してくれてたし」
病院から出たその足で春輝の家に向かう。春輝の家の大きな門の呼び鈴を押した。
『はい、どなたでしょうか?』
「おばさん、私、菜々香です。橘菜々香。」
『あら、菜々香ちゃん、いらっしゃい。今開けるね。』
家から出てきたおばさんは、やけに疲れていて、苦しそうだった。
「菜々香ちゃん、元気になったのね。」
「はい!病気が突然完治して。普通に生活できるようになったんです。」
「よかったわ。菜々香ちゃんのこと、すごく心配だったの。」
「ありがとうございます!」
「ところで、今日はどうしたの?」
「春輝に逢いに来たんです。顔が見たくて。」
私がそう言った瞬間、おばさんは泣き始めた。
「おば、さん?どうしたの?」
「な、ななか、ちゃん。ごめんね。」
「え?何がですか?」
「春輝、は。もういないの。」
「え?」
「春輝は、もう、死んだの。」
頭を殴られるような衝撃。どうして、が頭を埋め尽くす。春輝、なんで、なんで?
呆然としたまま、春輝の家を出た。苦しくて、悲しくて堪らなかった。なんで、なんで?
神様へ
春輝が死んだなんて、嘘って言ってよ…なんで?なんでなの?春輝と、一緒に、笑いたかった。なんで…?ねぇ。
空はウザイほど快晴で、僕は見上げて駅を出た。
知らない街で始める僕の旅。予定なんて決めてない、放浪。カモメが飛ぶ。海辺の街。
「やりたいことでいっぱいだ」
僕は呟いた。
流れ星を追って、僕らは駆け出した。遠くの空へ、手を伸ばし、全てを忘れて明かりを頼りに走った。先なんて、この先の未来なんてどうでもいい。この先も笑い合えるのなら――――
あの日の気持ちを、忘れないで。ずっとずっと。
これから色々変わってくる世界も、過ぎていく時も、止められない。この瞬間、全て大事な時間。ここにいるんだ。ここに、僕らはいるんだ。
亀に連れられ着いた竜宮城は、言葉にできないほど残酷だった。
「魚どもが!!まともに踊るくらいも出来ないわけ?コイツ、もう料理にしちゃいましょ」
悲鳴が聞こえる。恐ろしさに震える。
「…いつも、こんな調子なの?」
恐る恐る聞くと、亀は身震いひとつし
「はい、そうにございます。お助けくださいませんか?」
ぶるぶると震え、縋るように俺を掴む。俺は、意を決し、怒声の聞こえる城の、扉を開けた。中には血だらけにされた魚たち、瀕死の小さな生き物たち。そして、なにより恐ろしかったのは、乙姫の姿。美しいその顔に血を散らし、睨みつけていたであろう目元には怒りじわ。慌てて取り繕うように顔を拭い、笑みを浮かべる。
「あなたは、私の亀を助けてくれたの…」
「お前がしてることは間違っている。」
「あら?なんのことでしょう?」
尚も知らない風を装う乙姫を、思わず俺は殴ってしまった。そして、乙姫が落とした包丁を拾う。
「な、なにをされるのですか?おやめくだ…」
「お前に包丁を向けられた魚たちは、どんな気持ちだっただろうな。」
「な、なんのこ…」
苛立ちに任せ、怒声を上げる。
そこからは、記憶がなくて。気が付けば乙姫は血だらけで倒れていた。わきから亀が近づく。
「完全に、死んでおります。やりました…!!やってくださいましたよ…!!」
大喜びで、魚たちが声を上げる。
「ありがとうございます!!なんとお礼を言ったらよいか…!!言葉にできないほど、感謝でいっぱいにございます!!」
喜ぶ魚たちを見て、俺はほんとに正しかったのか。それで頭がいっぱいになった。
ー残酷なのは、俺なんじゃないか?
新たな1歩を歩む君へ。
おめでとう。新たな場所で、怖いこともいっぱいあるし、泣きたい日も、笑えない日もあるかもしれない。だけど、だけどね。僕は何時でも君の味方だから、辛かったらいつでも言うんだよ。約束ね。
泣かないで、君が決めた道だろ?真っ直ぐ背を伸ばして。力強く歩んで。たまに逃げたい時は逃げてもいいから。なんにせよ君の人生、思うようになるさ。行ってらっしゃい!
春爛漫、新しい季節の光に照らされ、飛び出してゆけ