「もう、俺サッカー出来ないって。」
何事もないように言う彼の表情は、逆光でよくみえなかった。
「そっか。」
そんな言葉しか出てこなくて、どうしたらいいのかも分からなくて。気付けば2人、真っ暗な部室にいた。彼の胸の内も、なにも分からない。
「無理しなくていいから。泣いていいから。今から私、透明人間だから。」
そう言って背を向けると、泣く声が聞こえる。悔しい、なんで、繰り返す声。
「あんたが、誰よりもずっと頑張ってたのは、私が知ってるから。頑張ったね。」
「…あり、がとう。」
『りょうくん、ありがとね。』
まぶしい白、笑顔が日に映える。大好きな彼女の横に立つ俺は幸せ者だ。
『緊張してるの?』
少し馬鹿にするような声色で、彼女は語りかける。だまったまま頷くと、ころころと鈴のような声で笑う。
『ほら、行こ!そろそ…どうしたの?』
彼女が掴む手を、強く握って引き止める。これだけは言わなきゃ、言わなきゃいけない。
「これからも、ずっと傍にいさせてくれ、永遠。」
驚いたように目をめいいっぱい開き、その後微笑む。少し涙ぐむ。
『やめてよ、式の前から泣かせないで。もちろんに決まってるでしょ』
美しい白を、目が捕える。引き寄せ、髪にキスをした。
「大好きだ、と…」
「おい!やめろ!もう、もう彼女は死んでいるんだ!」
ふと、誰かの声に、引き止められる。
「死んでない!これから、これから式なんだぞ!!!」
ひそひそと遠くから声が聞こえる。そんなことどうだっていい。
「永遠ぁ、俺が幸せにするからなぁ。ずっと、ずーっと、傍にいるからなぁ」
楽しいことしてると、時間ってあっという間だよね。
あ、ほらもう夕日が沈んでる。さみしいなぁ、また、また明日も遊ぼうね。約束だよ!絶対。じゃあ
「またね」
約束な。また、この星空の下で会おうぜ。
その約束は、もう叶うことは無い。
「かわいそうに…まだ若いのに…」
「通り魔ですって…ひどい」
1人で見上げた星空は、なんでか汚かった。
辛ければ泣けばいい、それだけだって。君は、我慢しすぎなんだ。無理はするな、大丈夫。俺が受け止めるから。だからさ、泣いちゃう日があってもいい。君が君でいられるなら、俺が受け止めてあげるから、いっぱい泣いて。今はそれでいいんだよ。