どんな大人になりたいですか。
ときたま、懐かしいその質問が脳裏をよぎる。
どんな大人になりたかったか。
まだ可能性の箱を胸いっぱいに抱きしめていた頃、夢があり希望があり、無垢で信じていたはずだ。何者かになれると。
誰かにとっての何者でもなく、私にとっても何者でもなく、夢も希望も目標も、とうにどこかへやってしまった。ただ呼吸し生きている。ただ命を消費していると言ってもいい。
ただ、眠る前にふと考えてしまう時がある。いまから大人になり直すことができるなら。私は誰かにとっての何者かになりたい。そうしたら、私は私にとっての何者かにきっとなれるだろうか。
「脳裏」
放課後に あなたとおしゃべり 西の窓
夜まだ来るな 帰りたくないの
『過ぎた日を思う』
何度も死のうと思ったけど
怖くてやめたの
もし、私が死んでも
あなたに何も残せなかったらって
あなたの心を動かせなかったらって
『怖がり』
彼女は太陽のような女の子です。
よく笑い、一生懸命で、夢のためなら努力を惜しまない。
彼女には自分がある。
彼女の周りの人たちも自然と笑っている。
ようにみえる。
私は彼女に近づきすぎた。
私にも夢があった。
彼女にその夢を打ち明けた。
でも彼女は私の夢以上に輝いていて、私の心はすぐに枯れてしまった。
どうやったって、私じゃ何者にもなれない。
太陽に近い惑星も、みんな枯れ果てているじゃない。
私は少しずつ彼女から離れてしまった。
その後彼女はアイドルになって、みんなを照らし続けているけれど。
やっぱり太陽は少し遠くから眺めるくらいがちょうどいい。
2023/02/22『太陽のような』
男は今まで、悪いことをたくさんしてきた。
妊婦に肩をぶつけてみたり、友人から借りた金をかえさなかったり、公園で遊ぶ子供にうるさいと怒鳴ったりもした。
ある時とうとうカッとなって、吠えてきた近所の犬を蹴り殺した。
数年の懲役をすることになった。
男は後悔した。
経歴に傷がついたな。
犬を殺す前に戻ってやり直したい。
入所した夜、男は夢を見た。
「お前が望むなら、お前が望むようにやり直させてやってもいい」
そう言って目の前に光が降りてきた。
「あんたは神か?」
「そう呼ぶ者もいる」
「じゃあ、やり直させてくれ。こんなとこに来なくていいように。」
「いいだろう、明日の朝には全て変わっている」
男はにやりとして、朝を待つことにした。
次の日の朝。
とある刑務所から1人の男が消えた。
見回りをしていた刑務官が、部屋から男が消えたことに気づいた。しかし、誰が収容されていたのか全くわからない。
記録を見ても、確かに誰か収容されているのにその詳細がわからなかった。
光は空から刑務所の様子を眺めていた。
「まあ、0からやり直すくらいなら、生まれなければ経歴を気にする必要もないわな。いいことしてやった」
2023/02/22『0からの』