サンタさんサンタさん
女の子にプレゼント
ドレスに靴に立派な馬車
娘はそれで喜んだと
女の子女の子
招待状もお城もないのに
お家も帰る所もないのに
女の子女の子
か弱く儚くそれでも強か
ドレスを火に焚べ
ガラスに雪を
南瓜もネズミもぶち込んで
女の子女の子
マッチ売りの女の子
美味しくないけど最後の晩餐
かもしれないけどマッチの火
一晩だけは温かい
一刻だけは温かい
‹贈り物の中身›
夜空色のアイスキャンディ
輝く星がパチパチ弾けた
凍空のアイスキャンディ
張り付く舌がビリビリ千切れた
深い深い夜のアイスキャンディ
腹も心も芯から冷えた
美味しかった筈のアイスキャンディ
いつからいつからしんどくなった
‹凍てつく星空›
「昔々あるところに」
「おじいさんおばあさんおりまして」
「ある日おばあさん川へ」
「全て飲み干し」
「おじいさん山へ」
「軒並み更地」
「昔々あるところに」
「おじいさんおばあさんおりまして」
「大層大層力の強い」
「おじいさんおばあさんおりまして」
「桃食べ猿食べ犬食べ鳥食べ」
「鬼食べ島食べ宝も食べ」
「そうしてそうして」
「世界は平和」
「それがそれが」
「いつかのはなし」
‹君と紡ぐ物語›
風鈴を壊してしまった
寒くなったから仕舞おうとしたのだ
薄い硝子に花火の咲く
可愛らしい風鈴だった
水琴鈴を壊してしまった
汚れてしまったから洗おうとしたのだ
金色の球に桃白を水引く
可愛らしい水琴鈴だった
鈴を壊してしまった
怯えていたから守ろうとしたのだ
黒く長い髪に薄赤い頬の
可愛らしい子供だった
‹失われた響き›
赤い間に細かく細かく
白が入っているお肉は美味しいのだと
薄白い粥を啜りながら
おじいさんは懐かしげ
黒い土瓶に温かな
茸とお出汁が香りいいのだと
乾いた野菜を食べながら
おばあさんは深々ため息
今しか知らない私には
あんまり意味がわからなかったけど
赤い地面に霜が降る
黒い身体から湯気が出る
こんな光景だったのかしら
美味しそうには見えなかったけど
‹霜降る朝›
例えば眠りから覚める瞬間
夢中な本を閉じた直後
ふと現へ還るまでの一瞬
例えば山の頂に届いた時
全力掃除から顔上げた時
ふとピントを合わせる一瞬
身体が呼吸を思い出す
‹心の深呼吸›
私の右腕は母からの
左足は父からの贈り物
私の記憶は祖母からの
知識は祖父からの貢物
私の声は姉からの
両目は兄からの願い事
私の肺は妹からの
胎は弟からの捧げ物
継いで剥いで私の事
血統も歴史も私の事
いつか誰かに逢えるまで
ヒトのカタチの時止箱
‹時を繋ぐ糸›
黄色い葉が舞う道で
君はすらりと立っていた
スポットライトが照らすみたいに
指先を黄色く光らせて
赤い葉が積もった道で
君はきりりと歩いていた
レッドカーペットを行くみたいに
爪先を赤く沈ませて
茶色い葉が遊ぶ道で
君はひそり空を見ていた
これから芽吹く華のように
顔を茶色に汚しながら
‹落ち葉の道›
だっていっつも放って置かれるの
あの子が何か訴えるといつも
何を言っても何をしても
こっちをなんにも見なくなる
終いには怒られて
歳上なんだからって理不尽に
そんなのひどいと思わない?
だからあの子が静かになるように
誰にも聞こえないようにしたの
簡単に見つからないようにしたの
そうしたらこっちを見てくれるって
だってね わたし
弟妹がほしいなんて一回も
言ったことなんて無かったのよ
‹君が隠した鍵›
要らない時間だと思いました
無意味に画面を眺めることが
無価値なゲームに打ち込むことが
不使用な知識の習得が
要らない時間だと思いました
無意味な人との懇談が
無価値な人との付き合いが
不合理な人との繋がりが
要らない時間だと思いました
全て切って整理して
綺麗に綺麗にした後は
人生一人になりました
一人きりになりました
それが選んだ道でした
そう選んだ道でした
‹手放した時間›
ふわりと鉄香の風が吹く
そういえば君の誕生日だ
もう随分見てはいないが
どんな姿で何に動いて
誰と共に生きていたのか
何を発し何処で迷い
どうやって生きていくのか
夢想して 夢想して
その姿が幸福であるほど
永遠に訪れないその時を
この上なく嬉しく思う
‹紅の記憶›
きらきらした欠片が降り注いでいた
赤に青に様々に光り
集って砕けて形を変えて
きらきらした欠片が降り注いでいた
とても美しく手を伸ばしたかった
組んだまま固められた指では
何も拾うことは出来なかった
きらきらした欠片が降り注いでいた
とても美しく素晴らしかった
手の中刺し穿つナニカもまた
等しく美しいものであれと願っていた
‹夢の断片›
「よお、元気か」
「体はね」
「それなら上等。話は聞いたか」
「まあ、って言っても選択肢なんかある?」
「一人一個ペースで上げてたろ」
「……それ、本当に選べると思って言ってる?」
「言ってるぞ、こっちはな」
「……コレで君達全員の正気を疑わないといけなくなった」
「お前以外全員が狂ってんなら、もうソレが正常だろ。何がご不満だよ」
「無理でしょって言ってるの。正味、今のこの扱いすら疑いモノ過ぎるんだけど」
「無理じゃないぞ、ある程度はな。曲がりなりにも此方の大義名分は『共存』だ。此方が旗振り返してやれば向こうも強く言えない」
‹見えない未来へ›
一撃必殺みたいな面で
正義の味方みたいなウタで
そんなに急いでいかなくても
君は良かったんじゃないかしら
‹吹き抜ける風›
ふと、目の前に小さな灯火が見えた
ふと、それは小さな本を照らしていた
ふと、読んではいけないと声がした
ふと、早く読んでしまうべきと声がした
ふと、袖を前に引かれた
ふと、裾を後ろに引かれた
ふと、其処が何処かを思い出した
ふと、己が誰かを思い出した
ふと、よんではいけないと声がした
ふと、早くよめと声がした
ふと、本の内容を思い出した
ふと、求められたことを思い出した
ふと、足を一歩進めた
ふと、声が小さくなった
ふと、声が大きくなった
ふと、足を進めた
ふと、足を進めた
‹記憶のランタン›
青い葉が無惨に枯れ落ち
黒い肌が赤白く焼け痛み
裸足の子供は冗談みたいに
丸く着膨れただるまになる
それでもまだ秋これはまだ秋
雪が降るまでは冬じゃない
‹冬へ›