今だけ今日だけ一生一度
いつだって約束は空言だけで
君だけ此処だけ今生限り
口遊む誓いは反故より軽い
笑って許すも本気で怒るも
一度だって反省しないけど
一回一回さいごの一回
甘えた振りして震える指を
冗談と払ってやれないくらいには
‹今日だけ許して›
人の助けが欲しい時
「誰か」と呼びかけてはいけないと
他人事傍観者決め込まれぬよう
名指し指差しで特定すべきと
人と愛をしたい時
「誰か」と曖昧にしてはいけないと
時間を生命も無駄にせぬよう
必須条件を吟味すべきと
君が君を語る時
「誰か」と有耶無耶にしてくれるな
たった一人の大切なひとを
代えがあるように言ってくれるな
‹誰か›
扉の閉まる音に目が覚めた。
人気の無い空っぽの部屋だ。
カーテンの奥は酷く眩く、
きっとまた遅刻間際だろう。
ベッドから降りて服を拾う。
せめてゴミでも片してやらねば、
奴が少しでも良く寝れるよう。
大した量も箱も袋もありゃしないが、
捨てに行けぬから大差無い。
足のない身で手伝いなぞ、
高が高が知れているが。
奴の道行きの手伝いだ、
成仏までは付き合おう。
‹遠い足音›
「最近さぁ、突然涼しくなったじゃん?」
「わかる、朝晩結構冷えるよね」
「そうそう、だから珍しくしっかり秋が来たなって
天気予報見たの。『夏日』ってあったのよね」
「つまり…一昔前の夏は今のコレ……?」
「多分コレ……」
「こわ……」
‹秋の訪れ›
旅の終わりは何処でしょう?
目的地かしら はたまた家?
旅の終わりは何時でしょう?
満足した時 止まった時?
旅の終わりは何でしょう?
望んだ光景 それとも死?
旅の終わりはどうでしょう?
きっと何か諦めること
旅の終わりには誰になる?
なりたい人に成れている?
‹旅は続く›
白黒テレビのあった時代は
現実も白黒だったのだと
無邪気に信じていた事がある
だからいつかの未来の子供も
私達を指して言うだろう
この時代の人たちは
みんな平面だったのだと
‹モノクロ›
星も生命も祈りの声も
途絶えてしまう朝がある
歌も平和も苦しみの時も
止み静まる夜がある
愛も言葉もダイヤモンドも
誓いの永久には程遠い
だからせめて一つだけ
君と僕との有限に
誠実であるだけを
失われるまでの約束を
‹永遠なんて、ないけれど›
君を悲しませるようなモノ
何でも無くしてしまうから
君を悲しませるようなモノ
何でも失くしてしまうから
君を悲しませるようなモノ
何でも亡くしてしまうから
だから教えてと問うたのに
君はただ首を振り続ける
‹涙の理由›
夜目遠目傘の内、とは人が美しく見える条件だという。
それはつまり見えない部分を自然補ってしまう機能だと。
そうカップを傾ける、重たい前髪の奥に僅か見える目は、美しく光っているようだった。
黒い水面に映るのは、熱さに窄めた唇なのに。
白い湯気の向こう側、赤い月が笑うようで。
その本性を知って尚有効な、不思議な不可視のベールを一枚、空のカップに注ぎ足した。
本日の待ち人は、どうにも遅いようだ。
‹コーヒーが冷めないうちに›
ぱらぱらと
めくるページの裏表
光年遥か
言葉は見えず
‹パラレルワールド›
短い針と長い針
ある時同時に動き出す
短い針はゆっくりと
長い針は忙しなく
それでも何度も影を重ね
同じ時間を進んでいく
短い針はゆっくりと
長い針は忙しなく
離れていく距離を進んでいく
短い針と長い針
ある時一本外れ落ちた
落ちて砕けて消えていった
一本の針は動いている
それでもまだ止まれずに
‹時計の針が重なって›
この手を取って、共に行こう
煌めく森の中、鮮やかな花畑へ
この手を取って、共に行こう
賑やかな街中、心弾む時間へ
この手を取って、共に行こう
静かな帰り道、暖かく眠るように
どの手でも良い、共に行こう
君のために伸ばした手を
どれでも良い、取ってほしい
どうか、一人でいかないで
全て抱えていかないで
‹僕と一緒に›