夜目遠目傘の内、とは人が美しく見える条件だという。
それはつまり見えない部分を自然補ってしまう機能だと。
そうカップを傾ける、重たい前髪の奥に僅か見える目は、美しく光っているようだった。
黒い水面に映るのは、熱さに窄めた唇なのに。
白い湯気の向こう側、赤い月が笑うようで。
その本性を知って尚有効な、不思議な不可視のベールを一枚、空のカップに注ぎ足した。
本日の待ち人は、どうにも遅いようだ。
‹コーヒーが冷めないうちに›
ぱらぱらと
めくるページの裏表
光年遥か
言葉は見えず
‹パラレルワールド›
短い針と長い針
ある時同時に動き出す
短い針はゆっくりと
長い針は忙しなく
それでも何度も影を重ね
同じ時間を進んでいく
短い針はゆっくりと
長い針は忙しなく
離れていく距離を進んでいく
短い針と長い針
ある時一本外れ落ちた
落ちて砕けて消えていった
一本の針は動いている
それでもまだ止まれずに
‹時計の針が重なって›
この手を取って、共に行こう
煌めく森の中、鮮やかな花畑へ
この手を取って、共に行こう
賑やかな街中、心弾む時間へ
この手を取って、共に行こう
静かな帰り道、暖かく眠るように
どの手でも良い、共に行こう
君のために伸ばした手を
どれでも良い、取ってほしい
どうか、一人でいかないで
全て抱えていかないで
‹僕と一緒に›
9/27/2025, 9:54:49 AM