知人と呼ぶには距離近く
友人と呼ぶには気が合わず
兄弟と呼ぶには気恥ずかしく
相棒と呼ぶには他が適し
好敵手と呼ぶには噛み合わず
味方と呼ぶには食い違い
敵と呼ぶには同道を歩んだ
お前の墓標に刻む名を
一人送る野辺で刻む名を
悩み選んだ一言は
それでもどこか事実と遠く
‹仲間›
絡んだ指がシーツに埋まる
見上げる君は薄赤く
少し苦しそうに涙を零した
僕が君のものになり
君が僕のものになる
たったそれだけのことで
たったそれだけのことなのだけど
この温かみに永劫二度と
触れられないのは
少しだけ
‹手を繋いで›
君の事が嫌いでした
何でも直ぐ暴力に訴える君が
無くなれば全て解決すると思ってる君が
心から馬鹿だと思いました
便利なだけで心底嫌いでした
でも
君の言葉が言葉通りで
植えられた信念のままに
ただそうあってしまっただけだと
趣味の悪い種明かしを自慢気にされたとき
私は
私はそうあれと願った細腕を
暴力を使えないこの体を
初めて
初めて恨みました
‹ありがとう、ごめんね›
花が咲いていた
日の当たらない薄暗い隅っこの事だ
光を集めたような色をして
静かに俯いていた
蕾がついていた
日の当たらない薄暗い隅っこの事だ
固く小さな萼片に守られ
凛と前を向いていた
新芽が出ていた
日の当たらない薄暗い隅っこの事だ
初々しくもぴんと張った葉が
上を目指し仰いでいた
種実が落ちていた
日の当たらない薄暗い隅っこの事だ
雨すら当たらぬ部屋の隅
それでも水を注いだのは私だった
‹部屋の片隅で›
君の涙が好きでした
君が袖を引いてくれるから
力に訴えても許されるから
君の涙が好きでした
君の怒りが好きでした
心のままの声が聞けるから
力で善を為せるから
君の怒りが好きでした
力を振るうのは嫌いでした
それでも君の憂いが晴れるなら
君の笑顔にいつか繋がるなら
そう信じて力を振るいました
笑ってるところは
さいごまで
見ることはできなかったけど
‹逆さま›
鮮やかな光が空を彩る
大音響が空気を揺らす
ふうわり香る焼けた匂い
やわく暖かい風に
名を呼び唄う声
君の好きな素敵なもの
たくさんたくさん集めたから
だからきっともう一度
君は目を開けてくれるよね
‹眠れないほど›
「蝶々なのか人なのかって話」
「あれでね、ちょっと思ったの」
「私とこんなに気の合う君こそが」
「私の現実で」
「今の私がただの夢だったらって」
「ね、」
「夢ってさ、びっくりしたら覚めるよね?」
‹夢と現実›