アルバムを出さなくても
日記帳を捲らなくても
ずっと年老いても
全部分からなくなっても
それでもそれでも覚えているよ
君と過ごした長い時間を
‹たくさんの想い出›
寒くなると僕は消えて
そうして私になる
喜ぶひともいるし嘆く人もいるから
ちょっとだけの日もあるし
たくさんの日もある
少しゆったりの日もあるし
ずっとばたばたの日もある
いろんな形があるけれど
ぎゅってされたらもうわからない
私の名前は
‹冬になったら›
鵲の橋
野菜の動物
渡し舟
手を伸ばせば届きそうなのに
どうして一人で渡れない
‹はなればなれ›
「プシー?ああ、こんなとこにいた」
「それで呼ぶなって言ってんだろ、子供扱いすんな」
「だってうちの可愛子ちゃんだもの。ごめんね?」
「ったく……。で?呼んだには状況整ったか」
「そういう賢いとこ好きよ。そろそろ道開くから此方で待機しててほしいの」
「だっから……いやもう良いわ、了解」
「ふふふ。それじゃ、御手をどうぞ レディ?」
‹子猫›
煙の匂いがするという。
冬は藁を薪を焼く
春は野を畑を焼く
夏は香を光を焼く
灰の香りがするという。
焚き火は禁止の筈だけど
秋も尚枝葉を焼く匂いがする。
冬程の温もりも
春程の栄養も
夏程の寂寥もなく
灰の香りがする
焼けた香りの風が吹く
‹秋風›
「ちゃんと君の隣に立てるひとになって、
絶対に戻ってくるから」
「だから君もちゃんと元気に生きていてね」
「……ね、泣かないでよ」
「今生の別れになんて絶対させないから!」
‹また会いましょう›
「さて、世の中には危険を冒すことで得る
快感があるという」
「何、一概に否定する訳じゃあ無いさ」
「ただね、万引きや借りパクと言う奴。
あれはいただけない」
「一つの盗みが何重も重なって店を潰し」
「あるいは持ち主の宝物かもしれないものを奪う」
「するとどうなる」
「店主や従業員は路頭に迷い」
「本来の持ち主は心を折ってしまう」
「するとどうなる」
「その出来心のせいで、誰かが命を摘んでしまう。
往々にして、それがありうるのさ」
「嘘つきは泥棒の始まりとは言うがね」
「窃盗は人殺しの始まりさ」
‹スリル›
君の隣りに居た
平らな背中をした君の
地を走る君が好きで
いつも空から声を掛けた
空を夢見る君が好きで
君を抱えて飛ぶ練習をした
光の似合う君が好きで
良くないモノを沢山祓った
でも君が
空を行く姿が気に障ると
大きな翼が嫌いだと言うから
見たくもないと泣くから
そしたらそうしたら
しょうがないから
それでも君が好きだから
白い羽を腐り落とした
連なる骨を粉にした
初めて地に着いた脚ごと
翼を命を絶った体が崩れ落ちた
……不思議だな
どうしてそんなに驚いているんだろう
‹飛べない翼›