「ちゃんと君の隣に立てるひとになって、
絶対に戻ってくるから」
「だから君もちゃんと元気に生きていてね」
「……ね、泣かないでよ」
「今生の別れになんて絶対させないから!」
‹また会いましょう›
「さて、世の中には危険を冒すことで得る
快感があるという」
「何、一概に否定する訳じゃあ無いさ」
「ただね、万引きや借りパクと言う奴。
あれはいただけない」
「一つの盗みが何重も重なって店を潰し」
「あるいは持ち主の宝物かもしれないものを奪う」
「するとどうなる」
「店主や従業員は路頭に迷い」
「本来の持ち主は心を折ってしまう」
「するとどうなる」
「その出来心のせいで、誰かが命を摘んでしまう。
往々にして、それがありうるのさ」
「嘘つきは泥棒の始まりとは言うがね」
「窃盗は人殺しの始まりさ」
‹スリル›
君の隣りに居た
平らな背中をした君の
地を走る君が好きで
いつも空から声を掛けた
空を夢見る君が好きで
君を抱えて飛ぶ練習をした
光の似合う君が好きで
良くないモノを沢山祓った
でも君が
空を行く姿が気に障ると
大きな翼が嫌いだと言うから
見たくもないと泣くから
そしたらそうしたら
しょうがないから
それでも君が好きだから
白い羽を腐り落とした
連なる骨を粉にした
初めて地に着いた脚ごと
翼を命を絶った体が崩れ落ちた
……不思議だな
どうしてそんなに驚いているんだろう
‹飛べない翼›
白茶色が波打つ度、金の水面を幻視する。
広く、一斉に風をざわめかせる中、
不自然に揺れ止まる影へ、
強く光らせた画面を掲げる。
背の高い海を掻き分けて振られた手に、
招き返しながら明かりを消した。
「完全に迷ってたわ助かった」
「んな奥まで行かなきゃ良かったろ」
「手前はおチビ達に取っとかないとな」
ざわりと揺れる。刈り取られた波が揺蕩う。
少しばかり滲む赤に消毒液を探す、と。
ふわり頭を飾る触覚。
「……器用だこと」
「穂だけだしな」
溢れ落ちた毛が僅かに首を刺す。
そうと穂冠を正しながら、吐息に視線を辿る。
いつも通り読めない瞳と、いつも通り目が合う。
「これも意味があんの」
「さてね」
似合ってはいると叩かれる軽口も、
見つめ続ければ明確に唇を吊り上げて。
「良いよ。好きな意味選んで受け取れば」
‹ススキ›
誰でも良い、
俺の頭蓋を開けて脳に焼き記してくれ!
死の代償なぞこの光景だけでいい!
‹脳裏›
恋を出来ないけど好意くらいは分かった
愛の認識は無いけど慈しむくらいは出来た
区別を理解しないけど平等くらいは成せた
ひとの育て方なんて何にも知らなかったけど
知識と環境を整える余裕はあった
ひとでなしだってできることだった
ここに正しさが在ったかは
最期に至っても解答は無いけれど
‹意味がないこと›
わたし達
生きる為の栄養を
何でも好きに
選べたのなら
‹あなたとわたし›