静かな雨が降っていた
細やかな雨粒は優しく肌を撫で
午後のぬるんだ空気に触れて
むしろ温かくすらあった
涙を隠すように
激情を鎮めるように
灰雲が薄闇を抱き
喉震わす言葉は
風が巻いて逝った
やわらかなやさしさが降り頻る
花を枯らし根を腐らせる
実を落とし種子を沈める
心地良いだけの毒物を
そうと知れど尚手放せず
‹柔らかい雨›
ばかみたいっていわれるけれど。
あんまりに眩しすぎた世界の中で、
ただ一時だけ影を傾けてくれた。
そのひとに救われたのは確かだった。
‹一筋の光›
枯れ葉舞う樹に立ち竦む
隣の君は指をさす
花色染める幹枝を
芽吹きゆく小さな瘤を
積雪咲かす日を
繰り返し彩る季節を
隣にいた君は指差した
一人未来を指差した
‹哀愁を誘う›
鏡に対して「お前は誰だ」と問うてはいけない
自己崩壊してしまうかららしい
鏡に対して「褒める」行動はしたほうが良い
自己肯定感を上げられるかららしい
私は見ない鏡を見ない
そんな怖いもの見てられない
‹鏡の中の自分›
「……うん、そう。よかったね」
「ん?ふふ、そうね。明日もいい日よ」
「大丈夫、きっと楽しい夢を見れるわ」
「うん、うん。おやすみなさい」
「……おやすみ。どうか、いい夢を」
‹眠りにつく前に›
不変は退屈で
停滞は焦燥
不動は無理で
継続は困難
「だから永遠なんて人には叶わないんだ」
「……叶わない筈、だったんだよ」
‹永遠に›
「好きな物を好きなだけ食べて」
「好きな時に好きなだけ寝て遊んで」
「好きな人と好きなだけ一緒に居られる」
「そんな夢みたいな世界が有ったとして」
「それでも『好き』が一致しない時」
「あるいは『嫌い』が一致しない時」
「そこは容易く天国から」
「無限の地獄に変化する」
「例えばお菓子しか無い世界の甘味嫌いみたいに」
「例えば性交が自由な世界での性嫌悪みたいに」
「例えば皆で騒ぐ世界で一人でありたい人みたいに」
「例えば誰も死なない世界の殺人愛好家みたいに」
「例えば個性重視の世界でお揃いしたい人みたいに」
「例えばこのどうにもならない世界での君みたいに」
「すべては善悪じゃなく」
「ただ好悪だけで決まっていく」
「だから」
「万人にとっての必ずの幸福は叶わない」
「『幸福』の形は誰もが一致はしないから」
‹理想郷›