昔の病院は何処もかしこも真っ白で、
それは清潔感の証明だったという
やがて清潔に慣れ白に慣れ、
すると逆に虚無や消失が連想され、
パステルの柔らかさを、
アイボリーの優しさを、
白の上に装うようになった
けれども人は慣れていく
明るい色も温かい色も
落ち着いた色も穏やかな色も
慣れて慣れて慣れてしまって
装いは次々色を変えて
胎内みたいな真っ赤な部屋で
下手物みたいに真っ青な流動食
一つの汚れも分からない真っ黒な医師が
サイケデリックに輝く薬を出す
でもこれはずっと変わらないのだよなと
銀色を刺す痛みに目を閉じた
‹病室›
「明日はきっと青空だから」
「あの日みたいに海に行こう」
「君と揃いの服を着て」
「新しいサンダルを履いて」
「瓶に手紙も詰めてさ」
「そうして、そうして、今度はちゃんと」
「ちゃんと、一緒にかえろうね」
‹明日、もし晴れたら›
友と語らう時、
共有の楽しみと我儘の忍耐を得る。
家族と過ごす時、
習慣の平穏とレッテルの束縛感を得る。
好意を差し出される時、
想われることの喜びと変化への苦しみを得る。
大概の物事は二律背反で
大体の関係は苦楽混合で
その中で
誰と別れ、誰と出会い、
誰と対立し、誰と寄り添い
誰とどの時を生きていくのかを選んで行く。
ならば、私が選ぶなら
誰と共に居る平和より
誰と共に暮す安寧より
大切を喪う絶望を、心の底から捨てられるならば
‹だから、一人でいたい。›
透明な眼差しがひとつ瞬いて
ふぁとやわらかくたわむ
伸ばした手を確かに追って尚
へたりと座り込む四肢は動かない
「……ごめんね。やっぱり、嘘ついた」
両の手で握り込む首筋
気道が歪み血管が高らかに
それでも尚それでも尚
ぶら下がる掌が打つことも
投げ出された脚が蹴り上げることも
歯をむき出して放つ悪辣も
解かれて程涸れて
全て認識しない瞳ばかりが美しい
「生きてるだけ、じゃぁなんにもならないね」
平和に揺れるうたかたに
心ばかり平穏と程遠く
‹澄んだ瞳›
風が奪い取り
雨が撃ち付け
雷が焼き貫き
闇が駆り立て
荒れ狂う自然を
容赦無い破壊を
僅か明るいだけの窓から覗く時
青く晴れ渡る空と同じ程
白く吹き荒ぶ雪と同じ程
染まり欠ける月と同じ程
私の胸は高鳴り
鼻歌も出るほどの歓びを覚えている
‹嵐が来ようとも›
提灯ほわりきらきらと
月も星も無い空に
駆ける下駄の音崩れる衣ずれ
きゃらきゃらの声に負けず賑やかに
兄さんが笑って
姉さんがはしゃいで
あの子が回って
その子が頬張って
彼が指をさして
彼女が選んで
君と手を繋いで
は一緒に
一晩で子供は消えました
‹お祭り›