じゃあね
バイバイ
さようなら
いつも軽く手を振る友人に
常日頃思っていた不満だった
「どうして『また』って言ってくれないの」
一つ瞬いた瞳が淋しく細められて
ーーーー鳴り響く鐘の音
目が閉じられていくと共に
端から消えていくその身体を
崩れていく光景を
組み立て直される世界を
記憶へと還っていく全てを
「きみが『二度と』来ないからでしょう」
夢の残滓が一欠片
忘却の海に消えていく
<また明日>
わたしだけを吸って
わたしだけを飲んで
わたしの中だけで循環したなら
せかいはきっと平和だったのに
生命は貪欲で
生命は真っ直ぐで
そしてきみは未来を目指すから
産声を上げたきみを祝福する
外へと旅立つきみを祝福する
どうかきみを満たすものが
きみにとって善いものであるように
<透明>
たとえば生まれた時からそばにいて
同じ家で同じ部屋で過ごして
同じものを食べて同じ経験をして
同じように当たり前のように
二人成長して大人になって
なんだかんだ死の際まで隣にいれたら
なんて
別に嘘でもなかったけれど
あなたがそれで幸せになれないのなら
そんな約束投げてしまってほしかった
あなたに幸せになってほしかった
ただそれだけだったのに
<理想のあなた>
知ってるかい 知ってるかい
エレベーターで喧嘩しちゃいけないよ
知ってるさ 知ってるさ
狭いとこの喧嘩は大迷惑だ
知ってるかい 知ってるかい
相手を残して出ちゃいけないよ
知ってるさ 知ってるさ
捨て台詞で逃げられちゃうんだ
知ってるかい 知ってるかい
今はそうでもないそうだが
吊る紐が切れて 吊り紐が切れて
箱ごと真っ逆さま御陀仏と
知ってるさ 知ってるさ
だから此処から出られない
ごめんなさいも言えないのさ
<突然の別れ>
「物語。そう、物語だったのよ」
「魔王がいて怪物がいて、勇者がいて魔女がいて」
「サンタもおばけもいて、宇宙人も未来人もいて」
「でも、現実にいると信じられていないでしょう」
「全部空想の、想像の産物だったでしょう」
「だからおんなじだと思ってたのよ」
「誰かを恋して愛するなんて」
「ただの物語上、よくあるだけの設定だと」
「嫉妬、執着、依存や崇拝の体の良い言い換え、
あるいはただの夢物語の憧れだと」
「そう思っておかしくないでしょう」
「だから、ごめんなさいね」
「きっととても喜ぶべき言葉だったんでしょうけど」
「その気持ちを私は返せない」
「ーーーその感情を、私は一生知り得ない」
<恋物語>
例えば善い子が眠りに就いた後
例えば短針が頂点を廻った時
あるいは草木もすっかり眠る頃
あるいは空の色が変わる直前
一番誰も見てない時間
悪いことの代名詞
それでも確かに誰かを救う
優しい闇の覆う時
<真夜中>
愛していたのでしょう、と声がする
今でも愛しているよ、と声を返す
ならばどうして、と声がする
怨めしくはないの、と声がする
今こそ復讐を、と、
声を断つ
それは一番しちゃいけないこと、と呟く
世界の為に誰かの愛を刈ったのだから
これまでずっとそうだったのだから
それは一番してはいけないこと
己の愛の為に世界を歪めるのは
この身が最も許されないこと
決して許してはいけないこと
<愛があれば何でもできる?>