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5/10/2024, 11:31:30 AM

蝶だ、と呼ぶ。彼女は一瞥しか返してくれなかった。
伸ばした指先に上手く留まったそれを近づけると、
意外な程嫌な顔をされた。
蝶は嫌い?と覗き込む。所謂虫全般苦手という人ではなかったから。重ねるなら、いつも室内の虫を外に出すのは彼女の役目だったから。
あまり好きじゃないの、と彼女は言った。
飛ぶ虫は怖いのよ、と彼女は言った。
こんなに可愛いのに?と翅をつまみ広げた。蜂ならまだしも、無害な蝶を怖がる意味が分からなくて。
見た目の問題じゃないの、と彼女は言った。おぞましいの一歩手前のような目をして言った。
飛ぶ虫は、
飛ぶために身体が脆いのよ、と。
きれいな蝶は、
燐粉が取れると飛べなくなってしまうのよ、と。
離した指先、ふらふらと不格好に飛んでいく白い翅。
白く光る粉を濡れタオルで拭いながら彼女は言う。
今あなたは、命を一つ殺したのよ、と。

<モンシロチョウ>

5/10/2024, 10:42:30 AM

強くて大きな背中でした。
大きな怖いばけものから、一太刀で守ってくれた
その人は、とても格好よくて。
多分初恋でした。一目で好きになりました。
一緒に遊んでくれる足が、
優しく撫でてくれる手が、
行道を寿ぎ帰道を慶ぶ声が、
いつも隣に居てくれた人が、
大好きでした。今も大好きです。
だから、だから、きっとずっと、
ずっと一緒にーーー

「……………馬鹿な夢。」
まだ薄明るい窓の下、固まった身体を伸ばすように
鏡を手に取った。
目と肌の色は問題ない。でも髪を伸ばしすぎた。
表情筋を調整して、屈託ない笑顔になるように。
声の低さが届かないままだけど、今度の報酬で
目処が着く、筈。

夢想の背中を思い出す。
爪先まで天辺まで強く強く思い返す。
まだ全然違う身体を、どう修正する。
あの正しい心根を、どうやって再現する。
どうすればあの人は戻ってくる。
あの日死ぬべきだった私の代わりに、
もう焼け落ちた身体の代わりに、
あの人を、その名を、存在を、
私が確かにしなければ。
必ずあの人を蘇らせなければ。

<忘れられない、いつまでも。>

5/8/2024, 12:46:48 PM

「来年、卒業式が終わったらさ。旅行にいこうよ」
「海とか良くない?青春っぽくてさ」
「お城好きだもんね、それも見に行こう」
「散々写真とってさ、皆に自慢してさ」
「ちょっとくらい大人ぶったってばれやしないし」
「それで、沢山遊んで、沢山笑った後にさ、」
「渡したいものがあるんだよ」
「ずっとの約束をしたいんだよ」

「………返事してよ、お願いだから」

<一年後>

5/7/2024, 12:17:47 PM

恋ってどんなものかしら
甘くて酸っぱくてほろ苦い?
恋っていつ出逢えるかしら
子供の頃に青年期に?
恋って
恋って何なのかしら
知らないまま分からないまま
何回この日を迎えれば?
いつになったら終わるのかしら?

<初恋の日>

5/7/2024, 10:50:05 AM

馬鹿馬鹿しい、と白い煙
薄ら霞みと硝子の向こう
何処か剣呑な黒い瞳
良いじゃない、と白い唇
曇り重なる透明樹脂
僅か和ませた緩い笑み
永遠を誓った金の色
幸福を希った対の証
明日終わってしまうなら、
もう二人で居れぬのなら、
共に終わってしまえばと
共に来世を願えばと

<明日世界が終わるなら>

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