始めは一つの声でした
ゆるりゆるり伸びていく声が
重なるのも直ぐでした
高くは弾み 低くは奮わせ
重なり合って色をなす
それは一つの歌でした
弦を叩いた優しい響き
革を叩いた重い衝撃
金を叩いた煌めきの波
木を叩いた暖かな転がり
歌に寄り添い色を染める
それは一つの曲でした
並ぶ足裏が地面を擦り
張られた生地の一揃い
拍子を取る手 骨鳴る指先
曲と共に物語を成す
それは一つのステージでした
やがて床も笑いだし
壁もぽろぽろ震わせる
拍手代わりを降らす屋根に
遂に柱は悲鳴を挙げ
それは
それは一つの心中でした
<カラフル>
なにもかもがあったのだ。
暖かな日差しも、柔らかな薄曇りも
緑咲く大地も、さざめく海も
鮮やかな星々も、心弾む歌声も
丁度良い服も、沈み混む寝床も
気の置けない親友も、健康的な身体も
なにもかもがあった。
なにもかもがあったのだ。
「それでもお前は行くというの」
零れた果汁が染める袖
蕩けるように甘い芳香
詰るような、責めるような
それが精一杯の抗議と知っていて
「それでも行かなきゃならない」
白み始めた水平線
遠く聞こえる鐘の声
小さく引かれた袖の先が
同じ色に染まりゆく
………
小煩いアラーム、半端に日差しの落ちる床
草葉も人のざわめきもなく、風だけが吹き荒ぶ音
何もかもがないこの場所で、
一人きりのこの場所で
「夢なんかじゃなく、お前の場所まで辿り着くとも」
花を編んだ指飾り
揃いの白こそ誓いの証
<楽園>
ふわりと綿毛が飛んでいく
遠く遠く青空に
白く真っ直ぐ引かれる線
長く長く青空に
旅立つ君に別れの歌を
挑み立つ君に激励を
この吐息の一つすら
君の追い風となるように
<風にのって>
晴れ空のように澄みわたり
星花みたいに麗しく
陽光がごとく明るく
真実と誠実を心に
大地を駆け
海風を拓き
未来を望み
春夏秋冬を数え
永久を想い
刹那を慈しみ
君が
この世に産まれ落ちた君が
いつまでも幸せの中に在ることを
愛をもってその名に祈る
いつまでも祈っている
<刹那>
「生き物はね、次代に命を繋ぐのがお仕事よ」
「でもね、それを果たす手段は別に、
子供を産むことだけじゃないのよ」
「赤ちゃんを無事に取り上げるのも、母子を補助する
のも、無事に命を繋ぐのに大事だし」
「食肉や野菜を育てて、市場に回して、加工して、
口に入るようにするのも不可欠だわ」
「教育、医療、遊び、芸術、他にも皆。健全に安定に
次代のまたその次の次を繋いで行くのに必要な事」
「父母の代わりに社会を回すのも、当然そう」
「自分の次代を繋げずとも、誰かの次代を繋げる
なら、その全てに意味があるわ」
「皆、自分に出来る事で、自分達の種の次代を繋いで
いくの」
「でもね、自分に出来る事を、その意味を
一つに固定しない方が良いわ」
「それが果たせなくなった時、
それを果たしてしまった時、
其処から先の生に対して、
意味を、価値を、見失ってしまうから」
「無価値を自覚して生きることは、
ただ生きることより、死んでしまうことより、
ずっとずっと難しいこと」
「難しいことを続けるのは、当然難しいもの」
「……そう伝えていくことが、
私の役目だと信じているの」
<生きる意味>