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2/16/2024, 9:23:42 AM

タイムカプセルを埋めようと思った。

大切な宝物を一つ一つ紙に包んで、一等お気に入りだったお菓子の缶に、丁寧にぎっしり詰め込んだ。
幾らか重たくなった缶を抱えて、私だけの秘密基地、金木犀の木の下に埋めようと土を掘った。

かつん、と。

少し掘って直ぐに金属音がした。
沿うように掘り進めると、それはお菓子の缶だった。
丁度、今私が持っているのと似た缶だった。

蓋を開けてみるとスカスカで、便箋が一つだけ入っていた。

『明日に9歳になる私へ』
『明日、知らない人が誕生日祝いに来たら、絶対に着いていくんだよ』
『宝物を埋める必要もない。一緒に持っていけば壊れることはないから』
『"私"が今の"私"に辿り着けるよう、健闘を祈るよ』
『無事大人になった私より』

「……そっか」

少し土で汚れてしまった手紙を畳み直し、再度便箋に入れる。
埋まっていた缶を確認すると、確かに、10年程先の賞味期限が読み取れた。

「うん、そっか」

元通りに缶を埋め直し、宝物を入れた缶を抱え直す。

此処にいてはいけない。
逃げる準備を、しなければ。



<10年後の私から届いた手紙>








「ねえ"私"さん」
「貴方は"私"じゃないから知らないのでしょうけど」
「明日誰が来るのかも、何で連れていきたいのかも、私もう知ってるの」
「そういえば、タイムカプセルの話をしてくれたのも、この手紙を読ませるためだったのかしら」

「未来を騙るなんて、本当に鬼みたいな人達ね」

2/14/2024, 10:47:26 AM

元は男性から女性へ花を贈る催しが、
女性から男性へチョコレートを贈る催しに変わり、
本命だの義理だの友だの家族だの同僚だの自分用だの、
人間関係を網羅する如く種類が増え続け早幾年。

「で、今年は」
「美味しそうだったんだけど駄目だった」
「ふーん……おい内容読めって普通にシナモン入ってる」
「大々的に書いてなかったからつい……」
「難儀な好き嫌いだよな……」

3×3のケースから、白と黄の入り交じる立方体は一つ欠け。その隣を躊躇いなく取り上げる。
角切り林檎とホワイトチョコ、ふわり甘く香るスパイス。

毎年なんやかんやと理由を付けて差し出される、食べ掛けのチョコレート。

毎年必ず香る"独特"の"甘い"匂い。

口を閉ざす意味を、問い掛けない理由を、沈黙の内に共有して。
昨日も今日も明日も変わらない、この上なく素晴らしい日々を、今年もまた続けるのだ。

<バレンタイン>

2/14/2024, 10:12:24 AM

絹糸は黒く、少しだけ茶を載せて。

黒瑪瑙も良いけれど、煙水晶の揺らぎも捨てがたく。

しろくやわらかな包みは大きめに。
細かな螺鈿も忘れてはいけない。

中身は白を中心に、様々な赤と、一番外側は黄色系。
それと隙間を埋め合わせるのは青。
自立出来る位にしっかり包みに詰め込んだ薔薇の花。

贈る筈だった白い衣装。
噛み破った指先で唇を飾って。
ゆらゆら燃える小さなカンテラを確かに持たせた。

「もう一度、やり直そう」

奇跡の材料は揃えた。
禁忌の境界は越えた。

川の縁に立ち竦む指を
この手に確かに引き寄せるために。

<待ってて>

2/12/2024, 12:03:43 PM

もしもし、元気してる?
私はねー……まぁうん、はい。
全く、人の言う事は一旦聞くべきだったよ。
……後悔はね、しちゃいけないから、しないよ。
まぁこれも君が言ったんだっけね。
あ、そっちって時間有る?無かったら別に良いんだけど、後でまた無駄話に付き合ってよ。
……例の、もう無駄な答え合わせ。今更結果なんて無いけどさ、やるだけやらせてくれると助かる。

「まぁ、私が君と同じ所に行けたらの話だけどね」



ーーーこの番号は、現在使用されておりません。



<伝えたい>

2/11/2024, 11:52:46 AM

「覚えてる?」

「覚えているわ」

「君が花をくれた場所だ」

「あなたと星を数えた場所ね」

「此処で別れて」

「此処で出会って」

「此処で呪った」

「此処で誓った」

「憐れな君、此処をさいごにしよう」

「可哀想なあなた、此処でおわりね」

「……でも、惜しむらくは」

「……ああ、残念ね」

「「最期くらい、その声を聞きたかった」」


<この場所で>

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