牛乳と玉子、ちょっと躊躇ったけどマヨネーズと豆腐も投入。
液体みたいになるまでよく混ぜて。
袋一杯分の粉を入れたらさっくり混ぜ過ぎない。
火にかけてたフライパンは一度濡れ布巾に置いてから、生地を高く一気に落とす。
穴が開き出したらせーのでひっくり返す。
甘い匂いが良い感じ。
冷ましついでに微塵切り器へ泡立てパーツとクリームをセット。
保冷剤で冷やしながら紐を引けば、ちょっと緩いけど形には成った。
苺の代わりに赤いチョコ、サービスでアイスも載せてしまう。
手作りが良いなんて我儘、嬉しいけど大変なのよ?
でも、お店のケーキにはとても敵わないけど、おうちのホットケーキにしては豪華じゃない?
なんて。
満開の笑顔の前じゃ苦労も自賛も吹き飛んじゃうわね。
「HAPPY BIRTHDAY」
君が生きていたこれまでに
君が歩いていくこれからに
幸せがいつもありますように。
<あなたに届けたい>
「月が綺麗なのは月が綺麗って意味しかねーんだよばかー!」
「おーん……荒れてますなぁ」
「死んでも良いわって返されても一回引くんだわ!口に出る一般言葉じゃねーんだよ!」
「君一見文学派ロマンチストだもんなあ」
「否定しねーけどリアルロマンは求めてねぇ!この世は堅実!」
「難儀だねえ。生きろー?」
「生きるわ!!ばりばり日の下で生きるわ!!」
「ばっちばちじゃん怖」
「あ?来ないとか言う?」
「いきますいきますー。」
<I LOVE……>
柔らかく暖かな春の光
生き生きと眩しい夏の香
寂しくも鮮やかな秋の音
荒々しく美しい冬の温度
君はどれを愛すだろう
君は何に笑うだろう
透明な窓の向こう
小さな君の目に写る景色は
どれほど輝くだろう
君を抱いて外を歩く日を
どれほどだって待ち続ける
<街へ>
「知ってる?『優しい』って半分は誉め言葉じゃないんだよ」
「裏にはね、『頼みを聞いてくれる』とか、『何も言わなくても対応して』とか、『利用しやすい』とか、『押せばどうにでも出来る』とかね、隠れてるんだ」
「だからね、私、君に『優しい人になって』って言えない」
「君を損なわない程度に、人に優しく『してあげる』位で良いよ」
そう言って、母は微笑んだ。
とても、とても優しい人だった。
<優しさ>
甘く鮮やかなオレンジ色
明るく華やかな黄金色
柔くも強い乳白色
「何で『真夜中』なのにこんな色が多いの?」
「次のは黒っぽいのだから……。んー、でもなんでだろうね。バーの光の下で綺麗だから、とか?」
「あれ、てっきり『女の子を酔わせて持ち帰るため』って言うのかと思った」
「そっ……そういう悪い文化があるのは否定しないけど……」
<ミッドナイト>
腹を撫でる。
軽い衝撃は君の足が蹴ったから。
きっとあの花が咲く頃に、
この世界に産声を上げる君が、
今から愛おしくてたまらない。
君が無事に生まれ、育ち、
やがて大人になるのが
今から楽しみで仕方ない。
だからこそ。
窓の外、青空の下、
この世界が君にとって
永遠に平和であることを
どうしても、願ってやまない。
<安心と不安>
分かる?と影が指差された。
「縁のね、そっちがわは青っぽくなってて。反対のこっちはオレンジっぽくなってるの」
「止まってると分かりにくいけど、歩いてるくらいの速度だともっと分かりやすいの」
「回折?で良いのかな?プリズムで分かれるのと同じのかなって思って」
「調べてる途中だったんだよ」
残念そうな声に振り仰いだ先。太陽に背を向けて俯くその子の顔は、よく見えた。
しゅんとした表情は影を生まず、光を透かし、はっきりと。
<逆光>