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1/28/2024, 8:36:00 AM

「知ってる?『優しい』って半分は誉め言葉じゃないんだよ」
「裏にはね、『頼みを聞いてくれる』とか、『何も言わなくても対応して』とか、『利用しやすい』とか、『押せばどうにでも出来る』とかね、隠れてるんだ」
「だからね、私、君に『優しい人になって』って言えない」
「君を損なわない程度に、人に優しく『してあげる』位で良いよ」
そう言って、母は微笑んだ。
とても、とても優しい人だった。

<優しさ>

1/28/2024, 8:28:35 AM

甘く鮮やかなオレンジ色
明るく華やかな黄金色
柔くも強い乳白色
「何で『真夜中』なのにこんな色が多いの?」
「次のは黒っぽいのだから……。んー、でもなんでだろうね。バーの光の下で綺麗だから、とか?」
「あれ、てっきり『女の子を酔わせて持ち帰るため』って言うのかと思った」
「そっ……そういう悪い文化があるのは否定しないけど……」

<ミッドナイト>


腹を撫でる。
軽い衝撃は君の足が蹴ったから。
きっとあの花が咲く頃に、
この世界に産声を上げる君が、
今から愛おしくてたまらない。
君が無事に生まれ、育ち、
やがて大人になるのが
今から楽しみで仕方ない。

だからこそ。

窓の外、青空の下、
この世界が君にとって
永遠に平和であることを
どうしても、願ってやまない。

<安心と不安>

1/25/2024, 9:58:48 AM

分かる?と影が指差された。
「縁のね、そっちがわは青っぽくなってて。反対のこっちはオレンジっぽくなってるの」
「止まってると分かりにくいけど、歩いてるくらいの速度だともっと分かりやすいの」
「回折?で良いのかな?プリズムで分かれるのと同じのかなって思って」
「調べてる途中だったんだよ」

残念そうな声に振り仰いだ先。太陽に背を向けて俯くその子の顔は、よく見えた。
しゅんとした表情は影を生まず、光を透かし、はっきりと。

<逆光>

1/23/2024, 1:30:54 PM

夢十夜だ、と手を叩いた。
中学だったか、高校だったか、確かに聞いたことがある出だしであった。
十話あるうちのどれが好きかい、と問われて、少し黙り混んだ。
たったが十話だ。何処ぞの国の千夜費やす物語でもあるまいに。
私が覚えているのはたった一話。一夜目の話。
女と墓の美しさしか覚えていない。

<こんな夢を見た>




母は、いつも玄関に背を向けていた。
外へ行く時、それと帰ってきた時だけ、扉を開ける私を見るけれど。母の椅子はいつも玄関に背を向けていた。
私を叱る時、いつもその扉は閉まっていた。
チャイムの音なんて聞いたこともなかった。

だから、母が手を挙げたまま倒れていくのを、私は避けることしか出来なかった。
大丈夫かなと赤く染まった手を伸ばしたのは、私と同じくらいの女の子だった。
女の子の後ろで扉は開いていて、その向こうには不思議な銀色の小屋みたいなものが見えた。
女の子は、母を、不思議な、複雑そうな色で見下ろしていた。

私はあなたのお母さんだよ。と、女の子は言った。
私のお母さんを、たった今刺した人が言った。
過去から来たんだよ。と、女の子は言った。
私のお母さんと、確かによく似てはいた。

患っていた致命的な病理の名は知らなかった。
母が女の子であった時代から患う病だった。
娘に罹患する前に対処しなければならなかった。
けれど生きている限りその方法は無かった。

「だから私は未来の私を殺すことにしたの」
「未来で何を起こしたって、私の"今"にタイムパラドックスは起きないから」
「それに、この事件が原因で時空間移動は利用禁止されるから。誰にもこれを変えられないわ」

母は、いつも玄関に背を向けていた。
過去の自分が殺しに来ることを知っていて。

<タイムマシーン>

1/22/2024, 9:48:54 AM

「あの星は?」
「10位だったかな」
「あっちは?」
「あー………230」
「……適当言ってない?」
「本当だよ」
「もー……。ね、あとどのくらい?」
「……10」
「それも億年?それとも光年?」
「分かってるでしょ」
「はーい」

「ね、この星の光は何処まで届くかな」
「観測できる者が居る処まで、どこまでも」
「そっか。あの星みたいに道標になれたら良いな」
「あんなに流星群が来るんだ、きっと強い光になる」
「ふふ。……じゃあね、お待たせ。さいごのお願いしても良い?」
「もう良いの?」
「良いよ、君まで危なくなっちゃうでしょ」
「……何を願うの、お嬢さん」
「何処かの星でね、この星を観測できたら。
 私の名前を付けてくれる?」
「それで良いの?」
「うん」
「分かった。……ついでに教科書にも載せてくるよ」
「ふふ、ありがと。」

<特別な夜>

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