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夢十夜だ、と手を叩いた。
中学だったか、高校だったか、確かに聞いたことがある出だしであった。
十話あるうちのどれが好きかい、と問われて、少し黙り混んだ。
たったが十話だ。何処ぞの国の千夜費やす物語でもあるまいに。
私が覚えているのはたった一話。一夜目の話。
女と墓の美しさしか覚えていない。

<こんな夢を見た>




母は、いつも玄関に背を向けていた。
外へ行く時、それと帰ってきた時だけ、扉を開ける私を見るけれど。母の椅子はいつも玄関に背を向けていた。
私を叱る時、いつもその扉は閉まっていた。
チャイムの音なんて聞いたこともなかった。

だから、母が手を挙げたまま倒れていくのを、私は避けることしか出来なかった。
大丈夫かなと赤く染まった手を伸ばしたのは、私と同じくらいの女の子だった。
女の子の後ろで扉は開いていて、その向こうには不思議な銀色の小屋みたいなものが見えた。
女の子は、母を、不思議な、複雑そうな色で見下ろしていた。

私はあなたのお母さんだよ。と、女の子は言った。
私のお母さんを、たった今刺した人が言った。
過去から来たんだよ。と、女の子は言った。
私のお母さんと、確かによく似てはいた。

患っていた致命的な病理の名は知らなかった。
母が女の子であった時代から患う病だった。
娘に罹患する前に対処しなければならなかった。
けれど生きている限りその方法は無かった。

「だから私は未来の私を殺すことにしたの」
「未来で何を起こしたって、私の"今"にタイムパラドックスは起きないから」
「それに、この事件が原因で時空間移動は利用禁止されるから。誰にもこれを変えられないわ」

母は、いつも玄関に背を向けていた。
過去の自分が殺しに来ることを知っていて。

<タイムマシーン>

1/23/2024, 1:30:54 PM