異雪

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8/2/2024, 2:07:41 PM

・病室

ここには何でもある。
いつだって好きな本を読んで好きな世界に行ける。
好きな音楽を聴いて好きな感情に浸れる。
好きなお菓子を満足するまで好きなだけ食べられる。
ここに私を傷つける人はいないし、私を否定する人はいない。
私好みにレイアウトされた大好きな私の部屋、どうか私の心が治るまで好きなだけいさせてね。

8/2/2024, 6:25:12 AM

・明日、もし晴れたら


今日も日記に傘マークを描く。
昨日も、一昨日も、その前も。
気づいたらずっと傘マークしか描いてない。日記を書いてる時は明日こそ天気が変わると思っているんだけど、いざ今日を振り返ってみると、やっぱり傘マークを書いている。
やだなぁ。これからもずっと同じ雨模様なのかな。
晴れなくてもいい。せめて雨が止んでくれたらいいのに。

窓越しの星空に祈りながら今日も傘マークを描く。
明日こそどうか晴れますように。

7/31/2024, 8:28:41 PM

・だから、1人でいたい。

もうこれ以上思い出を増やしたくないんです。
私にこれを抱えていく勇気はないんです。
喜びや楽しさより、いずれ重荷になってしまう未来が怖いんです。
お願いだからどうか1人にしておいて。
きっとその方が幸せだから。
きっとその方が耐えられるから。
惨めでも、寂しくても、辛くても、それでもきっと1人でいることに安心するだろうから。

7/31/2024, 7:33:51 AM

・澄んだ瞳

新入社員たちの生き生きとした表情から僅かに目を逸らす。
もう何度目かの研修だが未だに真っ直ぐ見ることが出来ない。
別に年齢にコンプレックスがある訳じゃないし、実は弊社がブラックで罪悪感が……なんて訳でも無く。
ただどうしても苦手意識があったのだ。

ある日、そんな風に思っていたことをずっとお世話になっている上司に零したらこんな返事が返ってきた。
「あれ、実は俺も苦手でさ。新入社員の時のお前の顔も正直あんま見れなかった」
「えっ、何故ですか?」
「あー……要は恥ずかしいんだよ。俺みたいなフツーのオッサンを、まるで聖人のような目で見てくるだろ?それがどうもなぁ」
頬をかきながら答える上司の表情は、困ったようで、それでいて嬉しそうな顔だった。

そうか。
彼らは僕たちを1人の人として見ていなかったのか。それなら苦手意識が強くなるのも頷けてしまう。
「まぁ、なんだ。苦手なのはしょーがないが、目はちゃんと見てあげろよ。いずれ向こうも同じ人間だって気づいてくれるからさ」
上司はそう言って僕に缶コーヒーを渡すと仕事に戻って行った。

次の日、僕は今日も指導者として研修会に参加した。
相変わらず彼らの眼差しは苦手だが今度はちゃんと顔を見るように意識した。
僕はこの研修で、君たち新入社員と同じ人間として、人間が無事に仕事を出来ている事を少しでも教えられるよう頑張るつもりだ。

7/30/2024, 3:31:24 AM

・嵐がこようとも

確かに空は青々としていて波も穏やかだ。
きっと誰が見てもこの景色を長く留めておきたいと願うだろう。
それでも私はこの綺麗な大海原に風を吹きこまなければならない。
誰かが止めろと怒鳴っても。誰かが風を抑えても。誰かが波に飲まれても。二度とこの場所に人が来れなくなろうとも。
私はここに風を吹き続ける。
なぜ大海原がこうも穏やかだったのか、その身をもって知るべきだ。

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