・お祭り
部屋に持ち込まれた母親お手製の焼きそば。
景品代わりにプレゼントされたプラスチックのヨーヨー。
今日は特別、と先生が作ってくれたイチゴ味のかき氷。
妹がテーブルに転がした小さな飴玉たちはリンゴ飴の代わりらしい。
窓から見える景色はいつもと変わらず。
それでも家族が用意してくれた小さなお祭り会場が、今まで参加したどのお祭りよりも楽しかった。
どうかこの思い出が明日を生きるお守りになりますように。
・神様が舞い降りてきて、こう言った。
「それ、私は好きだよ」
くしゃくしゃに丸めた画用紙を指さして君は言う。
僕にとってこれはたった今ゴミになったのに。
それでも君はこのゴミを好きだと言った。
「勿体ないし、せっかくだから貰っていい?」
くしゃくしゃの画用紙を広げながら聞いてきた君に、僕はしどろもどろになりながら静かに頷く。
彼女は僕の返事を聞くと嬉しそうに飛び跳ね、そのまま画用紙をカバンの中に丁寧にしまい込んだ。
「貴方の絵、とっても好きなんだ」
「えっ……ど、どこが?線は歪んでるし色彩のバランスも悪いのに」
「そういうのよく分からないや!単に貴方の絵が好きなだけだよ」
はじめてだった。
技術じゃなくて、僕の書いた絵そのものを好きだと言ってくれる人が。
それが彼女にとってなんて事ない言葉だったのかもしれない。それでも僕にとっては救いの言葉のように思えた。
なんだか少しだけ心が晴れやかになった気がして、思わず笑みがこぼれる。
そんな僕の様子を彼女は不思議そうに見つめていた。
・誰かのためになるならば
「誰かのためになるならば」
なんて素敵な言葉でしょう。
きっかけを他者にする事で自身が責任を負う必要がなくなり、それを見聞きした周りからは善人としての評価を頂ける。
まるで魔法の呪文みたい。
「誰かのためになるならば」
なんて最高に自分勝手な言葉なんでしょう。
・鳥かご
そこにいるだけで身の安全が保証され食べるものにも困らない素敵な場所なのに、どうしてみな自分を見て「不自由だ」と悲しむのでしょうか。
籠の中から見たあなたたちの方が生きることに必死で色んな物事に縛られている不自由な人にしか見えないというのに。
・友情
友人の彼女を寝取った。試すように誘ってみたが、まさかここまで簡単に着いてくるとは思わなかった。どうして女っていつもこうなのか。スヤスヤと自分の横で無防備に寝てるこの女が憎らしくて堪らない。
女ってやつは何故こうも簡単にアイツを裏切るような真似が出来るんだよ。
アイツ、お前と付き合えて馬鹿みたいに喜んでいたのにな。
友人が次に付き合う人はこんなクズじゃない事を祈りながら何度かのタバコに火をつけた。