異雪

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・澄んだ瞳

新入社員たちの生き生きとした表情から僅かに目を逸らす。
もう何度目かの研修だが未だに真っ直ぐ見ることが出来ない。
別に年齢にコンプレックスがある訳じゃないし、実は弊社がブラックで罪悪感が……なんて訳でも無く。
ただどうしても苦手意識があったのだ。

ある日、そんな風に思っていたことをずっとお世話になっている上司に零したらこんな返事が返ってきた。
「あれ、実は俺も苦手でさ。新入社員の時のお前の顔も正直あんま見れなかった」
「えっ、何故ですか?」
「あー……要は恥ずかしいんだよ。俺みたいなフツーのオッサンを、まるで聖人のような目で見てくるだろ?それがどうもなぁ」
頬をかきながら答える上司の表情は、困ったようで、それでいて嬉しそうな顔だった。

そうか。
彼らは僕たちを1人の人として見ていなかったのか。それなら苦手意識が強くなるのも頷けてしまう。
「まぁ、なんだ。苦手なのはしょーがないが、目はちゃんと見てあげろよ。いずれ向こうも同じ人間だって気づいてくれるからさ」
上司はそう言って僕に缶コーヒーを渡すと仕事に戻って行った。

次の日、僕は今日も指導者として研修会に参加した。
相変わらず彼らの眼差しは苦手だが今度はちゃんと顔を見るように意識した。
僕はこの研修で、君たち新入社員と同じ人間として、人間が無事に仕事を出来ている事を少しでも教えられるよう頑張るつもりだ。

7/31/2024, 7:33:51 AM