巡り会えたら
静寂に包まれた部屋
部屋に響くのは自分の吐息だけ。後は、多少の鳥の囀り。施設の一番端の少し大きく、太陽の差し込む窓がステンドグラスのように輝き、反射された光で虹を創る。誰の声も届かない素敵な私だけの場所。そんな静寂に包まれた部屋は今日も私を誘う。
でも最近、子供の笑い声が入ってくるようになった。同じ施設内の子絡んで居ないせいで全く状勢がわからない。もしかしたら、遊び場所として設けられていた部屋が別の場所に、私だけの部屋に近いところに変わったのではないか?そう、簡単な予想を立てる。ついにこの静寂も潮時かと諦めながらも、他に居場所がないためなんとなくここに居座る。
「今日もだ。」
やはり、笑い声がする。毎日が変わり始めて何日かたち、そろそろ静寂が恋しくなった。いつものようにあの男の子の無邪気で優しい、大きな笑い声が聞こえる。そんなに面白いなら私も混ぜてほしい。きっと私からしたらつまらない、中身のない遊びだから。性格がひねくれ始めたことを感じる。
けれどいつしか彼の声を欲するようになった。部屋の真ん中から廊下側へ、ドアの目の前で崩した体育館座りをして、彼の優しく抱擁するような声を聞くのが日課となった。
時を告げる
些細なことでも
私は今日死ぬことにした。突然なんかじゃない。これはもう決定事項なのだ。最期なら華やかに私の死を飾ろう、そう思い立って屋上へ繋がる階段を登る足を速めた。階と階の間に存在する窓をふと見ると、もう随分な高さまで来ていた。
「もうすぐだ、」
自分でも今どんな気分なのかがわからなくて、考えることを放棄した。私の目の前に重そうなドアが立ちはだかった。
「ついた、」
少しばかり息を荒げながら謎の達成感を得ていた。ここの学校では自殺を阻止するためにドアを固く施錠してある、そんな噂を耳にしたがこれは私だけが知っている。噂というのは次第に大きく、嘘が混在するものだ。本当は屋上を隔てているドアは改変工事を行って建付けの悪いものから安全で丈夫なものに変えただけだったのだ。施錠なんてものは始めからされていなかったのだ。誰も屋上には近づかなかったことが功を奏した。私は躊躇せず屋上へ出る。フェンスで囲まれたそこは是非飛び降りてくださいなんて言わんばかりの危機感の無さで驚きはしたが、結果オーライだ。夕方の少し昼の暑さが残っているような哀愁漂う風が私の頬を撫でる。この世界にありがとうなんて言わない。私が死んだところで時間の軸は止まる事を知らない。いつも通る通学路の途中に生えている雑草が減ったとしても人は気付きやしない。それくらい世界にとっては些細なことなのだ。だから、これが私の最期の反抗だ。
ガシャンーー。
俺は人生で初めて好きな子ができた。初めてだから、この気持ちが本当に“好き“という感情なのか定かではないが、ネットで「好き どういう感情」と聞いてしまう程彼女から目を離すことができなくなってしまった。彼女はとても儚く、華奢で笑った顔は曇りのなく向日葵のように眩しかった。これが一目惚れというやつなのかと感嘆した。彼女に話しかけてみたくなった。
「あっあの、、。」
「んっ?」
「俺とそ、そのっ、、。と、友達になりませんか!!!」
顔に熱が溜まって赤くなるのが分かる。軽度のナンパじゃないかと心の中でツッコミながら逃げ出したいという思いだけが込み上げる。
「なにそれっ(笑)まだ名前も知らないのに、君、面白いね。」
同じクラスなのに名前を知られていなかったことに少しハートが欠けながらもなんとか会話が成立してホッとする。
「でも、、。」
彼女の顔が曇る。
「私と仲良くしてもきっと楽しくないよ。自分で言うのもなんだけど保証する。だから、ごめん。」
まさか友達申請をも振られるなんて俺は端から無しなのだなとこの世の終わりを感じた。
これを期に日を追うごとに彼女は学校に来なくなった。そんなに俺のことがキモかったのかなと反省しつつ誰よりも心配していた。3週間後、俺は掃除当番が1周して教室の掃除を任された。しゃーなしと思いながら箒で床を掃く。トドメを刺すように
「ゴミ袋最近変えてないからよろしくー。」
なんて面倒事を更に持ってきたのだ。
「逆福禄寿だな。」
と、鬱憤を晴らすために聞こえない程度に言ってやった。ゴミの溜まった袋を縛る。その時、体育着のような生地が見えた気がしたので抵抗はありながらも手を突っ込んでそれを掴む。それは見るも無惨な姿だった。誰かに踏まれた足跡、切り刻まれて原型がなく、汚水のようなものが滴っていた。かろうじて、名札が見えた。俺は唖然とする。
「は?」
開いた口が塞がらず、無意識にでた言葉だ。
「なんで、、?」
彼女が来なくなって半年が過ぎる頃、保健室登校をしている人いたよね?と、保健室を利用している子が噂を始めた。まさかと思い走り出す。余裕のない標準と声色で保健室の先生に尋ねる。
「三島音々さんは、、、居ますか、、?」
「三島さんなら、少し用ができたとか言って帰ってきてないわよ?」
彼女はきっとあそこにいる。今まで役に立たなかった直感が今回は当たるような気がしてならなかった。階段を勢いよく上る。呼気なんて忘れていたくらいだ。
「待ってくれ、俺はまだ君に、。何も、、。伝えなくちゃ、伝えるんだ、!」
ガシャンーー。
屋上に辿り着くともう辺りは夕方を迎え、カラスが鳴いていた。
「三島さんっっ!!!」
彼女が顔をこちらへ向ける。顔には数滴の金剛石が溢れていた。
「来ないでっ!!もう人間とは関わりたくない!!もうっ、、いいの。」
私はもう諦めへと覚悟が決まっていた。
「…ころが好きだ。」
何か言っている。もうそんな程度しか思わなくなっていた。
「三島さんの校庭の花に朝早く水をあげているところが好きだ。」
「三島さんの下駄箱の位置が高くて背伸びして靴を取っているところが好きだ。」
「三島さんの、、さんの、笑顔が大好きです!!」
「俺は、、三島さんの些細なその行動で好きになったんだっ。」
涙で顔がボロボロになって無様のはずなのに彼の姿は大きく勇敢に見えた。
「なんで、、なんでそんなに私に執着するの?」
彼は一言こう言った。
「三島さんは、もっと愛されるべき人間だからだよ。」
と顔をくしゃっとして笑った。
だから私はもう少しだけ、あと少しだけ君のために生きてみようと思ったのだ。