《些細なことでも》
好きな人の変化はよく分かる。
髪を切った時や、新しい靴を履いてきた時だってすぐに分かる。
恋に落ちれば落ちるほど、どんなに小さな出来事でも気付くようになる。
それとは逆に、自分のことには気づきにくい。
嫌な思いをしているのに溜め込んだり、限界なのに頑張ったり。常に昨日を超えていこうとする姿勢は素晴らしくても、限度の加減ができるようになれば、もっといい。
他人だけでなく、自分の些細なことにもきちんと気づくことが、とても大切なことなのだ。
些細な気づきが、人生を大きく変える可能性もあるのだから。
《心の灯火》
楽しい時、辛い時、励まされて勇気を貰った時、気合を入れた時、誰かを思う時、そんな色んな時に、心の灯火は強く光る。
その感情が、強ければ強いほど灯火の炎は激しく燃える。
ひとりじゃないと思う時、人のことを思いやれた時、人は心の灯火の存在に気づく。
誰とも関わりを持たないなんて人生はつまらない。勇気を出して、声をかけるのも心の灯火を光らせるチャンスだ。
ひとりで抱え込まず、誰かに相談してみることも、灯火の炎を保ち続ける栄養分となる。
ある日、突然LINEが開けなくなった。
有り得ない……友達に連絡出来ない……。
家から飛び出て友達の自宅へ向かったところ、驚いたことに、人がいない。
思い返してみれば、両親も居なければ、通行人も居なかった。
もしかして、僕以外に誰も居ない……?
コンビニに向かっても、スーパーに向かっても誰も居ない。
僕はこれから、1人で暮らしていかなければならないのだろうか……。
LINEが開けなければ、何も出来ない……。
もう僕は、どうやって生きてけばいいか分からない……。
これが夢であって欲しい。
――親に言われたことが、俺にはできなかった。
誰からも愛されず、親にはものとして扱われ、生きる価値などありもしない。ただ親に言われたことをひたすらにやり抜くことだけが、俺の生きる希望。
いくらテストで98点を取ったって、100点を取らなきゃ意味が無い。通知表でオール5のオールAを取ったって、それが当たり前だから褒められることも無い。
すべて、この顔がいけないのだ。
母にも父にも似ていない、このブサイクで醜いこの顔が。
こんな人生なら、生まれて来なければよかった……。
どれだけ頑張っていても、この顔が邪魔をして、誰にも愛されないし、誰にも褒められない。
誰からも応援されないのに、自分は1人で頑張るのは、やっぱり誰かに認めてもらいたいのだ。
そんなある時、親から言われた“それ”で、再度認識した。
もう僕は、この世に生きる価値も無いのだと、その時心から痛感してしまったのだ。
僕は最後まで、完璧では無かった。親が望むような完璧な息子には、もうなれないのだ。
両親に似ないこのブサイクさ……。
それだけが、僕がなりたい“完璧な僕”になることを邪魔したものだった。
俺がこの世を去るのも、この醜さがもたらしたこと。
僕が居なくなったところで、誰も悲しまない。
「あんたなんて、産まなきゃ良かった」
嗚呼、なんでこんなにも胸が苦しいのだろうか……。
でももうどうでもいいや……。
自宅のマンションの屋上まで、ゆっくりと階段を昇っていく。
はぁ……やっぱり、僕は完璧じゃない。
親に認められたいだけなのに、どれだけ頑張っても認められないのなら、僕に生きる価値などないのだ。
「さようなら、この世界。さようなら、完璧じゃない僕」
そう呟いてから、僕は屋上の柵を飛び越えて、空中へと1歩足を踏み出して――。