《元気かな》
俺はあいつのことがめっちゃ好きや。
付き合ぉてもう5年も経つあいつのことが、愛おしくてしゃーない。けど、俺があいつにどれだけ好きやと言うても、あいつは俺のことを見ようともせず、毎日、机に顔を埋めろや、わんわんと泣く。声に出して泣く。
どれだけ理由を聞いても、答えたってくれへん。
彼氏の俺にも言われへんような、そんな悲しいことがあったのやろ。
あいつを幸せにするんが、俺の生き甲斐や。
せやさかい、俺はあいつにわろてほしい。心からわろて、心から楽しんで、心から幸せになってほしい。
俺があいつにしてやれることは、ただ一つや。
──そばにいてやること。
たったそれだけしかできなくても、それだけできれば十分なんや。
めっちゃ好きな人の、幸せそうな顔は、いつだって元気が出る。
あいつが、──の、幸せそうに笑う写真を抱きしめて泣くんは、なんでやろか……。
俺がどれだけ愛しとると言うても、帰ってくるのは、毎日泣き声だけや。ちっとも笑い声が聞こえへん。
あいつが泣き始めろや、もう1ヶ月も経つ。
仕事から帰ってきた時には、すでに机で泣いとった。
俺は、一体どうすれば、あいつを幸せにできるんやろか。
そないな時、なぜか俺の両親がやってきよった。
両親も、えげつなく痩せ細り、目の下には隈ができとる。
「寝不足で遊びに来んなや」
と、声をかけても、両親はあいつと同じで返事を返してはくれなんだ。
なんで俺は、シカトされとんのだろうか──。
──「あの子が死んで、もう1ヶ月ね……。これから先、私たちは一体、どうしたらいいのかしら……」
……。
そうなんや、俺──死んでたんや……。
せやさかい、あいつも両親も、俺に返事を返してくれへんのや……。
俺、まだやりたいことようさんあるねんけど……。
あいつともっと一緒におりたいし、結婚指輪だって買ぉとった。「一緒に生涯を楽しもう」って、約束したのに……俺、死ぬの早すぎんやろ!!
なんで俺がこんな……。
「皐月ちゃん。これ……あの子が死んだ時、ポケットに入ってた物なんだけど……受け取ってくれるかしら」
母親が、あいつに渡したんは、紛れもなく、俺があいつのために買ぉたはずの結婚指輪やった。
それを見たあいつは、膝から崩れ落ちるように、地べたに座り込んだで。ほんで、その指輪の箱を、大事そうに胸に押し当てながら、俺の名前を……蓮っちゅう名前を必死のパッチで呼んでな、泣き続けとった。
5年前、俺があいつに告白した、あの公園で、俺はプロポーズをするつもりやった。俺の幸せな時間が始まった、思い出の場所で……。
ははっ……ははは……すまんな、皐月……すまん。
もし、俺が生きていたら、いつものように抱きしめて、腕の中に押し込んで、その背中をさすってやるのに……。
俺のおらんこの世界で、皐月はきっと、新しい恋を始めろや、幸せな家庭を築くんや。
俺に良くしてくれたように、夫となるその男は、世界一幸せな旦那さんになるはずや。
そないな相手が見つかったあんたは、──「元気かな」
4/9/2025, 4:28:18 PM