Len

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 俺がまだ小さかった時、ある女の子と約束したことがある。その約束は、大きくなった今でも、ほんの僅かな記憶だけ残っていた。


「大きくなったら、私を救って。それで一緒に、──」


 最後の言葉だけが思い出せなかった。
 俺とずっと一緒にいた彼女の存在が、まるっきり、最初からいなかったかのように忘れ去られていったのだ。
 彼女のことは、その約束のことしか覚えていなかった。

 あの時、彼女が言ったことを知ったのは、つい最近だ。
 仕事の関係で、実家に帰省した時のこと。
 母が、俺にこう言ったのだ。

「そういえば、あなたが小さい頃、ずっと一緒にいた女の子のこと、覚えてる? あの子が亡くなった後、あなたが変なことを言っていたのを思い出したの」

 その“変なこと”について聞くと、
「あの子が現れたんだって言ってたわ。僕と約束したんだって」
 その約束の内容を聞いて、俺は凍りつきそうだった。


「あの日も、今みたいに、夕日が沈む直前。あなたとあの子は、遠い約束をしたの。もう会うことのできないはずの二人が交わしてしまった、禁断の遠い約束を……」

 亡くなったその子は、小さい頃から病弱だった。
 生まれてから何度も入退院を繰り返しながら、学校に通学していた。
 俺は、クラスの輪に馴染めず、ひとりぼっちだったからか、その女の子と気が合ったのだ。
 話していくうちに、その子の命がもう長くないことを知った。
 だから最後に、俺は願ったのだ。

『彼女が死んだ後、最後に合わせて欲しい。最初で最後の秘密の約束をしたいんだ』と──。

 そして、その願いは叶ってしまった。
 彼女とその約束をしてから約20年。


 あの子は今日、俺のもとにやってくる。俺はその約束を果たさなくてはならない。大好きだったあの子のために。
 そして俺たちは
































共に命を絶つ……。


「大きくなったら、私を救って。それで一緒に、──来世に行こうね。25歳になる年に、迎えにいくからね」

 彼女との遠い約束は、大型トラックの急ブレーキの音と共に消えていった……。

4/9/2025, 7:04:00 AM