『お気に入り』
子供の頃、紅葉の木の上がお気に入りの場所だった。
薄暗い木の上から、陽の当たる田舎道を行き交う人々や、農作業の様子を眺めていた。
こちらから見えて、向こうから見えないこの場所にいると、自分はこの世に存在しない人のように思えてくる。
居るようでいない。
居ないようでいる。
人間関係もそういう位置がお気に入りだ。
『誰よりも』
ご飯食べてる?
ちゃんと寝てる?
時には部屋の掃除もしてね。
新しい生活もそろそろ新鮮さを失って、面倒になる頃合いでは?
口には出さないけど、
幸せを祈っています。
『10年後の私から届いた手紙』
間もなく、あなたを取り巻く環境はがらっと変わる。夫も子どもたちもそれぞれ進むべき道が見つかった。
これは喜ぶべき事だよ。
これまで家族のために注いできた時間と労力は、不要なものとなる。
私も身の振り方を考えなければね。
しばらくは物足りなさを感じるかもしれないけど、別に離れて暮らすわけではないし、協力できるところはする。
でもこれからは、もう少し自分の人生に集中できるんじゃないかな。
幸せの形は、家族の変化に合わせて変わっていく。
この事を頭の片すみに置いておいて欲しい。
最後に、今しかできないことをやり尽くしておくことをお勧めするよ。
ではね、10年後に。
『バレンタイン』
盆暮れ正月、クリスマス、
彼岸、誕生日に至るまで、
わが家のイベントは、ささやかなご馳走を手作りして、家族で楽しむという風にパターンが決まっている。
それは例に漏れず、
バレンタインも同(おんな)じだ。
しかし、ちょっと思うのだ。
盆暮れ正月、クリスマス、
彼岸、バレンタインはわかるけど、
みんなの誕生日もわかるけど、
ホワイトデーと私の誕生日まで、
私がご馳走を手作りするってどうゆうこと?
そんな疑問を抱きつつも、
不格好な料理を美味しそうに食べてくれる我が家の男どものために、
今日もせっせとチョコレートケーキを焼くのであった。
『待ってて』
君は待てない性格だよね
だから待っててとはいわない
君の望むように
何かに向かっていて欲しい
同じ方向を目指す限り、
きっと、またどこかで出会えるから