小さな幸せ:
気付けたら素晴らしいけど、意識して探すと結構難しいとも思う。
たとえば、一日じゅう天気が良くてあたたかいとなんとなく嬉しい。
だけど、花粉症が年々ひどくなるあの人を思うと少し複雑な気持ちになる。
あるいは、いつもより少し早く起きられると不思議と自分が立派に思える。
だけど、何も気にすることなく好きなだけ寝ていられるのも大いに贅沢だ。
今日という日があなたにとって良い日でありますように。
七色:
雨上がり、瞳の中の色彩に宇宙を見た。
星雲のような虹彩に取り巻かれた吸い込まれる暗闇の瞳孔、その奥で光を受ける水晶体が映す景色は本当に自分が見ているそれと同じなのか、まるで信じられなかった。
覗き込んでしまえば、この身が落とす影でその形も変わるだろう。それがひどく魅力的に思われながらも、凪いだ湖面に映る己を認めるのは躊躇われ、ただ見つめることがやっとだった。
瞬きのたび、射し込む光が反射している。
かすかに震えるしなやかな睫毛が穏やかな木漏れを思わせながら伏せられていき、水膜を湛えてまた陽光に向き合う。
「見て、虹が出てる」
横目に見れば確かに滲んでぼやけたような橋があったが、それよりもずっと近くにある瞳の宇宙から目を離したくなくて、中身のない相槌で誤魔化した。
手を繋いで:
駅前の通り、よく使うコンビニ、いつもの帰り道。
日が暮れていく路地のあちこちに思い出が散らばっていて、思わず感傷的になりそうだ。
あ、この看板。独特なフォントで書かれていて、お互い読めなくて笑い転げたなあ。
夏の暑い日にはここの自販機でどっちが奢るかじゃんけんなんかもした。
そういえばもう別の建物になってしまったけど、この先にあった店の雰囲気が好きでインテリアを選ぶときに真似したっけ。
いやはや、夕食時のやさしいかおりがノスタルジーに拍車をかけていけない。
一刻も早く家にたどり着きたくて歩みを早めつつ、履歴の一番上にある名前に手早く電話をかける。
「もしもし、もうすぐ帰るよ。何か買っていくものはある?……うん、うん。……わかった。それじゃあまたあとで。だいすきだよ」
ラララ:
ちょっと疲れてしまってさ、もう何もしたくないんだ。
君もよくやってるモンだ。本当に、よくやってる。
疲れた者同士で酒でも飲み交わしたいところだけど、今じゃ心中しかねないな。ハハ
君の人生が何か素晴らしいものでいっぱいになることを願っているよ。それじゃあ。
約束:
「またね」を今でも信じてる