容姿端麗で文武両道のあの子
博識なあいつと仲良くて
そんな2人を見ている僕は
何にも持ってやしなくて
何か身につけようと陸上部に入ったけど
なんの成果も出していない
親父のギターを借りて練習してみても
兄貴に英語を習ってみても
なにも
なにも
その時才色兼備のあの子に声をかけられた
「その絵私好きだよ」
なにもじゃなかったらしい
「不完全な僕」
最悪だ
雨が降っている
降らない予報だったのに
傘も持っていないのに
仕方がないからリュックからバインダーを取り出し、傘代わりにして歩き出す
プラスチックのバインダーに当たる雨音が何となく懐かしくて、もういいかとバインダーを下ろし歩いてみた
小さい頃は雨が好きだった
傘を差すというのが1歩大人になったような気がして晴れの日も傘を差していた
リュックの肩紐をぎゅっと握り、水溜まりの中に入ってみた
あんまり楽しくないなと思ったところでふと思い出した
バシャバシャと足踏みをしていた気がする
ただ入るだけでは面白くないのは当たり前だ
現に靴下まで濡れてぐちょぐちょしていて不愉快だ
試しにその場で軽く足踏みをしてみる
足を下ろすと水が跳ねる
持ち上げると澄んだ水の中で土がふわりと浮かび濁る
じっと観察してるうちに少しだけ楽しくなった
「雨に佇む」
2限が終わって昼休み。
1年の時はまあ、友達と食堂で食べたりコンビニで買った昼飯を空き教室で食べてみたりしたけれど、2年になってからは案外つるんだりしないもんで。
いつも通り食堂へ向かい、財布と腹の減り具合とじっくり会議をして昼飯を買い、いつもの席に座る。
”関係者専用”と書かれたドアが近くにある奥の隅っこにある2人席。
ウォーターサーバーが近いのが利点で、ドアが割と頻繁に開くのが欠点。
人通りが多い席はみんな座りたがらないからいつでも空いている。
今日は親子丼にしてみた。
おばちゃん曰く、いつもより安いのは畜産科でニワトリが大量に卵を産んだからだそうだ。
だし巻き玉子やオムライスなどメニュー表が黄色いと思ったらそんなことになっていたとは。
ふと見ると畜産科であろう人達が何やら忙しそうにしているが、心理学科の俺には関係ないしただ有難いだけだ。
具と米が1:1になるよう調節しながら食べていると、何か見られているような気がした。
気のせいか誰か友達だと思って顔を上げると、
俺の目の前の席、越しの机のその先にその女(ひと)はいた。
一瞬こちらをチラと見た後、左手で下ろした髪を耳にかけ、ご飯を頬張った。
たった数秒の出来事がスローモーションに見えた。
顔がタイプだったとか昨日見た女優に似てるとか同じ親子丼を食べていたからだとかそういう理由じゃない。
いや、かなり多めの普通盛り食べるんだとか思ったけれど。
そういったのではなくて、なんというか、凄く綺麗だと思った。
月並みな表現しか出てこないが、少し汚れた食堂に似合わない星の瞬き(またたき)を俺は見たのだ。
『向かい合わせ』
君が「てをつなごう」と言った時
君が「チョコあげる」と言った時
君が「彼氏が出来た」と言った時
君が「引っ越すんだ」と言った時
昨日君が「バイバイ」と言った時
思いを伝えれば良かった
『やるせない気持ち』
いつもの電車
いつも見かける隣の学校のあいつ
名前は知らない
いつもは話しかけるなんてしないのに、何故か今日は話しかけた。
いつもと違う行動。
話してみれば案外気が会って、
「あー学校行きたくねー」
「受験受験ってまだ俺ら2年だぜ?」
「「サボっちゃう?」」
そんな会話から始まった海への逃避行。
行くあてもなく、終点が海の近くだからというだけで行き先が決まった。
いつも降りる駅を通り越し、見たことの無い橋を渡り、見たことの無い看板を見て、一面緑の田んぼを見て、海が見えた。
駅から出ると真っ青な水面が光っていた。
2人して靴と靴下を脱ぎ、ズボンを捲り、ざぶざぶ海へ入っていった。
散々遊んで疲れた僕らは帰りすっかり寝てしまった。
先に眠ったこいつの頭の重さを肩に感じながら
「もう話すことは無いんだろうなあ」
と夢現で思った。
『海へ』