たまに私は記憶の海に潜る
断片的に覚えている小さな頃の思い出や、何気ない日常の海である
この海は透き通っていて、ぷかぷかと浮かぶこともゆっくり沈むことも出来る
まだ4歳くらいの頃、明け方に起きてしまった時に父が少し離れた所で寝ているのをちょくちょく見かけていた
あまり寝る時間が被ることが無かったので少し不思議な気持ちだった
父は長距離トラックの運転手をしていたため、明け方にガラケーのアラームをかけていた
ぴかぴか光る携帯、そこから流れる1000のバイオリン
全身で抱えるくらいのえんぴつがあったら何を描こうと想像しながらまた眠りについていた
最近昔の写真を大量に見つけた
楽しそうに笑う私、私をおんぶして幸せそうな笑顔を浮かべる父、私の勇姿を撮ろうとガラケーを構える兄、嬉しそうに私を抱きしめる母
少し深いところまで潜ると愛されていたのが伝わってきて心がぽかぽかするのだ
「記憶の海」
彼女はいつも花の香りと共に現れる
花をこよなく愛する彼女は花屋に就職し、自分の部屋にも花を飾り、香水も花の香りをつけている
”俯いていても見上げていても目に入るから好きなんだ”とよく言っている
待ち合わせ場所に来た時、少し背の低い彼女を探すのはいつも俺の鼻だ
花に詳しくなかったのにプレゼントを選ぶ度に花の種類、花言葉に詳しくなっていく
さあ、今年の誕生日プレゼントは何にしようか?
スミレの砂糖漬け、枯れない造花のカーネーション、バラの形のオルゴール...
やっぱり春生まれの彼女に似合うチューリップの花束にしよう
今日だけは俺が花の香りと共に現れる
「花の香りと共に」
ピンクのふわふわカーディガン
顔が少しだけ埋まるタートルネックのニット
手のひらが隠れるパーカー
コツコツいい音の鳴るブーツ
チェック柄がかわいい赤のマフラー
ニットの上にも着けやすい長めのネックレス
ココア色のロングコート
冬は私をかわいく彩る
「衣替え」
夕暮れの教室で1人涙をこぼす君
どうしても放っておけなくて
「どうしたの?」
声をかけてみた
君を泣いてほしくなくて
彼氏から酷い扱いを受けていると話す君
僕なら君を泣かせたりなんかしないのに
そんな気持ちを悟られないように
そっと話を聞く
「もう別れようかな」
ポツリと話す
「その方がいいと思うよ」
なんて白々しく同意する
君に似合うのは嬉し涙だけ
「涙の理由」
朝起きて急いで着替えてとりあえずバナナを口に入れて歯磨きしてトイレ行って駅までダッシュ
「座れないかなあ」と思いながら電車に乗るけど目の前の人は降りてくれなくて
「授業で使うんだった!」とコンビニへ向かってデータの印刷
「時間無くなっちゃう!」と早足で教室へ向かえばまだ先生は来てなくて
授業まであと5分
ほっと一息
「束の間の休息」