美しい物が好きだった。
きっと美しくなかったから。
絵画や音楽、陶芸や彫像。
音楽から話声、自然とか星空。
全てが美しく思えた。
それは私にはないものだから。
特に憧れたのは心だ。
優しい人が何よりも美しく思えた。
それは私にはないものだから。
#美しい
「消えるならこんな日が良いな」
彼女はベランダで煙草をふかしながら言った。
外は朝日に照らされた、雪が輝いていて、
「雲海みたいで綺麗じゃない」
それはいつか乗った飛行機からの景色に似ていた。
「天国の景色もこんな感じなのかな」
感嘆で漏れた息が白く輝く、
魂に色があるなら、きっとそれはこんな色だろう。
「綺麗でもやっぱり朝は冷えるね」
そう言って笑う笑顔には、
一つの陰りすら見つけられなかった。
「でも、こんな朝が好きだな」
私も冬晴れの朝が好きだよ。
「日の有り難さがわかるじゃない」
そうだね、
でも、寒くないと、
暖かさの価値がわからないのは、
悲しいことだと思うよ。
「こんな朝に思い出して」
笑顔で吐いたタバコ混じりの白い息は、
白銀に輝いて、
それは命そのものに思えた。
#冬晴れ
永遠は無いと知りながら、
それも求めるのは愚かだろう。
いつの間にか歳をとった。
年の暮に思うのは何度目だろうか。
変わらない様に見えても、
何か変わっているのだろうな。
俺も街も何もかも。
よく行ってたあの店も潰れたよ、
安酒で吐くまで呑んだあの店も、
小洒落た喫茶店に変わってたよ。
変わらないのは呑んでる面子だけだな。
何時まで続くかな。
知らないけど、来年は呑んでる気がするよ。
変わらないものはないけど、
出来るだけ続いたら良いよな。
またくだらない話をしよう。
また歳をとったなんて言いながら。
#変わらないものはない
降る雪と煌めく照明は、
誰かの誕生を祝っている。
道行く人は誰もが幸せに見えて、
歩く足元に目線をそらす。
聞こえるのはクリスマスキャロル、
止めてくれ、結局それは無駄だったじゃないか。
ただ静かに祈らせて。
あの灯りだけは消さないように。
それが与えられる物だから。
その為の祈りだから。
#プレゼント
ゆずの香りを漂わせ
我が物顔で街を歩く彼女は
恐れなど知らない
それは強さか若さか
あるいは愚かしさの現れか
真ん中を歩く彼女は
後ろの私を気にしてか
時折に振り向いて
そんな価値は無いよと
苦笑する己には
真ん中を歩く資格は無いと悟って
汚れなき人
後ろから見守らせて
汚れなき人
愚かしいままでいて
汚れなき人
振り返りはしないで
汚れなき人
そこから消えないで
何れ、背が視界から消えても
ゆずの香りにて思い出させて
#ゆずの香り