『特別な存在』
ベッコウ色のトランクに
大事な物を詰め込んだ
貰った絵手紙
アメジストの欠片
色鉛筆と落書帳
さぁ行こう
絵手紙に描かれた場所へ
麦わら帽子も持っていこう
光を返すアメジストを
色鉛筆で自由に描こう
ここにはきっと僕しか来ない
描かれた場所は
君と見つけた秘密基地
僕はここで夕日の沈むまで
独りで只管描き続ける
誰も来ないのは分かってる
気づくともう日が暮れて
蒸し暑い空気の中
蛍が涼しげに飛び交っていた
『バカみたい』
努力をした者が
報われるのではない
ただ報われた者は
須く努力している
中学の教師の言葉だったか
やけにはっきり覚えている
僕の努力は足りないのかと
やや自棄になりながらも
心のどこかに引っかかっていた
その言葉を
鬱陶しく思いながら
昨日までは生きてきた
今日、心が泣いた
もう言葉を忘れたい
もうレールは歩かない
心の教師の前にはもう立たない
僕は一人で生きていく
『二人ぼっち』
陽が傾く
二つの足音
二つの影法師
モノクロに映る傘が二つ
二人無言で歩き出す
話をしたいと思う僕
イヤホンをつけてる君
なんとなく一緒にいるけれど
君は何を考えている?
時たま目が合うけれど
君は僕に微笑むだけ
その微笑みはただ優しく
観葉植物のように清涼で
まぁいいか
明日晴れたなら
傘の幅分の距離が近づくさ
『夢が醒める前に』
気づくと霧の中にいた
さっきまで
うるさいほどの色の中にいたのに
今はどこも見渡せず
自分の掌だけが
嫌にはっきり見えている
光は無い
影も無い
自分というものも揺らいでいく
頭がぼぅっとしていった
転ばまいと足を踏み鳴らす
どこかで懐かしい声がした
突如色が咲いていく
意識も段々はっきりしてきた
どうも現実に戻らねばならないらしい
また逢いに行くから
その時は霧を晴らせて
顔をしっかり見せてくれ
『胸が高鳴る』
夏の夜の蒸し暑さと
涼やかに
しかし逞しく咲く千輪菊の
相反するような風物詩が
見事な調和をみせている
喧騒も今は
ただ心地よい旋律で
街の全てが浮かれている
来年はもう少し
花火の種類を覚えて来よう
きっとそのほうが
鮮やかな思い出になるだろう