『誰よりも』
死者は山に帰るのだと
太古の人はそう言った
星となって見守ってくれている
そう唱えた人もいた
全ては無に帰ると
そう説き回った人がいた
墓の中にその人はいないと
そう歌った人もいた
ならば今
君は一体どこにいる?
誰より想っている自信はある
無から有が生まれ得ると
そう発表した学者の言葉を
薄ぼんやりと信じている
『私から届いた手紙』
ポストに入ってた古びた封筒
忘れてた記憶を呼び覚ます
中に入ってた手紙には
褪せた数枚の桜の花びら
パリパリに乾いた茶色の欠片が
セピア色から色づいていき
記憶の中の桜が咲いた
手紙に書かれてた名前は
まごうことなき自分の名前
『10年後の私は何をしてる?』
それには返事を書けそうに無い
でも
水墨画のような心の中で
桃色の雫が広がっていく
10年後の私宛には
なんとか言葉を紡げそうだ
部屋に埋もれていた封筒に
同じ言葉を書くことにした
『バレンタイン』
今日は2月14日
約分すれば1月7日
1月7日は君の誕生日
気の早い
捻くれて臆病な僕は
先月おめでとうと
突然言ってしまったけど
君はただただ笑ってたね
僕の気持ちを知ってたのかな
「次は4月28日?」
桜は散ってしまってるだろうけど
ピクニックにでも誘ってみよう
『待ってて』
夕日が影を落とす道
そろそろ宵の明星が見えてくる
そして僕の心にも
夜の帳が下りてくる
朝焼けを見たのは
いつが最後だったのか
夜の闇を纏うように
静かに静かに生きていた
「待ってて」と君に言われたが
眩しい太陽を見据えるのは
まだ僕には勇気の要ること
そう
君は太陽なのだ
もう少しだけ待っててくれ
夜の住人の僕には
光に目を慣らす時間が要る
『伝えたい』
この声さえ届くなら
この言葉が届くなら
この手紙が届くなら
君に何を伝えよう
ただ白く
アラームの鳴る
消毒液臭いこの部屋から
どう思いを伝えよう
せめて部屋の薔薇の香を
カスミソウの淑やかさを
トルコキキョウの鮮やかさを
どうか
なんとか
伝えてください