※オアシス
ハレルヤ!
人々は半裸で湖を囲い、踊り狂った。
長い旅路で尽きかけた水から歓喜の歌声。
神は我々を見放さなかった!
老若男女関係なく騒ぎ立てる音が、遠く響く。
湖の中心に焚いた篝火が彼らの影を砂漠に伸ばした。
「……あそこは幻惑蠍の縄張りだよな」
「んー?ああ、素人が案内役雇わず突っ込んだって話あったし、やられたのかもね。明日か明後日には荷物漁りにでも取りに行くかい?」
「そうだな、水以外はたんまり持っていそうだ」
※涙の跡
この国には神川と呼ばれる神域がある。
遠き昔、神話の時代に、さる神が心を痛め落とした涙が地を抉り川と成したという。
神川は数カ国、距離にして最低でも2万kmが確認されている。その膨大な距離を流れてなお、水質汚染がない安全な飲み水であるが故に、神域なのだ。
流れる水を見て誰もが一度は口にする。
かの神は未だ涙を止められず心を痛めているのではないか。しかし神の涙が失われた時、命の水が枯れてしまうではないかと。
本来、神の涙を憂うはずが皮肉なものだ。
神が涙を拭い笑顔を見せれば、国が滅びるのだから。
※半袖
昨今、太陽が焼き殺しにくるため出番を失った半袖。
───と去年かその前の私は思っていたらしい。
去年 緊急入院→難病→実家に戻る をした中で
引越し荷物の中に半袖が1枚もない、というか夏服のほとんどが無くなっていた。
夏服として仕舞われていたのは、夏ポンチョとタンクトップ3枚、日傘である。
ワ、ワンチャン、ジャージ2セット追加……?
ともかく今年は夏服買いにダッシュしたよねー
Honeysでお買い物しました
おチビなのでユニクロ等はサイズが無いのよ……!
※もしも過去へと行けるのなら
勇者様とおだてられ、国の用意した仲間と共に魔族を討伐した俺に待ち受けていたのは、堕落勇者魔王という不名誉な烙印だった。
世界の人々が魔族も共存相手だと思ってたことを、俺は知らなかった。奴らは倒すべき敵だと聞かされ続けてきた。
俺を勇者として使った国も、世界が相手になった途端あっさり手のひらを返した。曰く、邪教徒であることを世界に証明するためあえて放逐したのである、と。
「魔王を倒せば世界が救われ、救済者である勇者様も神の祝福を受け、元の世界へお帰りになられるでしょう」
今思えば都合のいい甘言だ。自国都合で人を異世界から攫った国に良識があるか疑うべきだった。
もしこの世界に時空魔法があるならば───
俺は堕落勇者魔王として、あの国を滅ぼしてやる。
※またいつか
また、いつか。
そんな曖昧な約束が果たされることは無い。余程の激運でも持ち合わせていなければ。
飛び交う戦闘機と止まぬ爆撃。最早、自国を護る為というより敵国戦闘機と共に自国を破壊していた。そしてそんな状態に慣れてしまっている。
国の人攫いと言って過言でない徴兵は、もう何度目だろう。年寄りと子供が集落の要になるほど男女問わず連れ去られた。
自ら志願した息子の笑顔が脳裏に映る。
「またいつかお会いしましょう!」
約束が果たされることを信じて、私は今日も防空壕へ逃げ込むのだ。