オレは時告鳥。 オレは春告鳥。
群れで一番強いヤツが朝一 どこまでも響く美しい声で
番に鳴くことを許されてい 春の到来を皆に知らせる使
る。 命。
今日も陽が昇ると同時に高 冬の終わりと同時に高らか
らかに声を上げる。 に歌い上げる。
屋根の上でくるくる踊って 梅の周りで踊っているアイツ
いるアイツとは違うぜ。 らとは違うぜ。
コケコッコー! ホーホケキョ!
―――さえずり
#64【時を告げる】【踊るように】
「日本死神洞窟、水生生物課へようこそ!」
テーマパーク並みの明るい出迎えを受け、思わず苦笑してしまった。「こちらへどうぞ!」と、にこやかに案内され、砂浜の先にあるエレベーターのようなカゴに乗り込む。スルスルと音もなく下へ降りて行く。
この課の死神がつけている面は鬼だ。カゴの中から辺りを見回すと、複数の死神がいて、それぞれが赤鬼、青鬼、緑鬼などの様々な色の鬼の面をしている。
さっきまで居た動物園水族館課では死神が1人だったのに対し、この課には大勢の死神がいることに驚いた。だが、更なる驚きはこの洞窟が途方もない広さであるということだ。端が全く見えない。
動物園水族館課の洞窟は広かったが端は見えた。だがこの課の洞窟は、左右どちらに顔を向けても端が見えない。呆気に取られていると「ああ、ここかなり広いですよね。死神の数も多いですし」と、こちらの様子に気付いた死神が言う。「その名の通り海、川、湖などのありとあらゆる水の生き物の蝋燭がここにあります。なので、規模がかなり大きいんですよ」なるほど、と返事をしながら様々な生き物の形をした蝋燭を、スルスルと下り続けるカゴの中から見送る。
ウミガメ、サメ、マンボウ、クジラ。多種多様な海の生き物の蝋燭が見えた。そうか、ここは海か。川や湖はまた別なのかな?そう独りごちると「そうですね。繋がってはいますが、淡水の生き物はここにはいません」と死神が答えてくれた。
不意にカゴが停まった。「ここは海部、深海エリア。この下もまだまだずっと続いていますが、まだ行かれますか?」どんな生き物がいるのか見てみたい気もしたが、ずっと続く膨大な数の小さいキラキラした物で、目眩がし始めたことを伝えると「ああ、プランクトンの蝋燭ですよ。これで具合が悪くなる人、珍しくないです」と笑いながら言われた。「では上に戻りましょう」
上るカゴの中から、下を覗き込む。深い。蝋燭の光が果てしなく続いているため暗くはないが、とにかく深く、やはり底は見えない。「そちらには "深淵を覗くものは…" なんて言葉があるそうですね」と、背後から死神に言われ、背筋が寒くなるのを覚え覗くのをやめた。振り返ると死神がこちらをじっと見ていた。鬼の面の向こうの表情はどうだったのだろう。
上に戻ると「お疲れ様でした!またのお越しをお待ちしてます!」と、またテーマパークさながらに見送られ、短く礼を言うと砂浜を歩き始めた。
ふと足元をみると、ちいさな貝殻が現れ、またすぐに消えていった。
―――死神洞窟ツアー [水生生物課篇]
#63【きらめき】【貝殻】
塵も積もれば山となる
雨垂れ石をも穿つ
千里の道も一歩から
一文銭も小判の端
涓涓塞がざれば終に江河となる
積羽舟を沈む
―――小さなことからコツコツと
#62【些細なことでも】
これはあれだ、落語で聞くあれ、そう『死神』の洞窟。
随分広い洞窟だ。天井も高い。この広い空間に所狭しと例の蝋燭が並んでいる。よく見てみると、それぞれ形や色が違う。何の形か確認するため蝋燭に近付こうとした時、「その線から内側には入らないでください」と背後から声をかけられた。驚き振り向くと、黒いローブを身に纏った背の高いガイコツが立っていた。
え?ブ○ック?思わずそう口に出すと、「あー、やっぱりそうなります?」と困ったような口調でガイコツが言った。よく見るとそれはガイコツではなく、ガイコツのお面を被った何者かだった。「迷い込んだ人間と対峙する時は、素顔を出しちゃいけない決まりでしてね。年に1回、上から面が支給されるんですが、今年自分はこのお面を引き当てちゃったんですよ。すると来る人来る人みんな口を揃えてその名前を出すんですよね」最早どこからツッコんで良いのやら解らず黙っていると、ガイコツは更に話し続けた。「それでも私はまだ良い方で。だってほら、ちゃんと死神っぽいじゃないですか。同僚なんて天狗のとかひょっとこなんですよ。死神関係無いじゃないですか」死神が笑うのを聞きながら、ああ、じゃあきっと会う人会う人みんなに、鱗○さんとか鋼鐵○さんとか言われてるんだろうなぁ、とぼんやりと考えていた。
突然「あ!」と死神が声を上げたので驚き我に返った。何?と聞くと「いやぁ、スミマセン。脱線してしまいました。お前は仕事は真面目で良いがそのお喋り好きが玉に瑕だって、上司にもよく怒られるんです」死神が照れながら頭を掻いている。何の話だ?と不思議に思っていると「えーとですね、その線から内側には入らないでください」と最初に聞いたセリフをもう一度言われた。そうだった、そう声をかけられたんだった。
まるで美術館みたいな声かけだなと思いながら、何故かを死神に問うた。「お察しかと思いますが、これらは寿命の蝋燭です。万が一があってはならないので、線の内側には入らないようにお願いしてます。」なるほど。ついでに蝋燭について気になっていた、形と色のことも訊いてみた。「ああ、それはですね、それぞれの生き物の色形をしています。そちらの白くて丸いのはウサギで、こちらは見ての通りペンギン。向こうの灰色の大きい足はゾウです。」そう言われてみれば、どれも見覚えのあるものばかりだ。
改めて辺りを見てみると、イルカやオウム、ライオンやクラゲ、多種多様な生き物の蝋燭がある。まるで動物園みたいだな、とつぶやくと「その通り!ここは日本死神洞窟の動物園水族館課でございます!」と死神が意気揚々と答えた。
目眩がした。こんなに蝋燭があるのに、動物園水族館だけなのか。呆然としていると「次の洞窟へ行きたい場合はお声かけくださいね」と言われた。一体どれだけの課が、どれだけの洞窟があるのだろう。薄ら寒さを感じながら、ハイヨと小さく返事をした。
―――死神洞窟ツアー [動物園水族館課篇]
#61【心の灯火】
さて、ここに1台のスマホがある。
私がいつも使っているスマホ。
これが困ったことに、ここ数日LINEが開かない。
・ネットワークの確認
・スマホの空き容量を増やす
・キャッシュを削除
・スマホを再起動
・アプリを再インストール
色々試してみたけど、ウンともスンとも言わない。
あー参った。
気分は最悪だ。
友人や家族には別のSNSで伝えたけど、LINEが使えないのは本当に不便。
でもなんだか、最悪に思う反面、少し身軽になった気もする。
私も含めて現代人って、スマホやSNSに囚われ過ぎなのよね、きっと。
良い機会だから、デジタルデトックスってヤツを試してみようかな。
図書館とか美術館に行って教養を深めてみるとか。
それともハイキングや植物園に行って緑を満喫するとか。
それともそれとも列車で日帰り旅に出るとか。
段々楽しくなってきた。
明日を充実したデジタルデトックスデーとすべく、私は色々調べだした。
こんなにワクワクするの、いつ以来だろう。
たまにはこんなのもありよね。
―――デジタルデトックス
#60【開けないLINE】