傾月

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8/1/2023, 11:55:55 PM

もし晴れたら何しよう
そんな有りもしないことを考えてみる
考えていると楽しくなってきた
紙とペンを取り出して思い付いたことを書き連ねていく
・洗濯物を外に干す
・布団を外に干す
・傘や合羽を干す
・窓を開けて換気をする
・日光浴をする
・公園に行く
・自転車で遠出する
・ピクニックをする
・バーベキューをする
・キャンプに行く
・花火をする
・海へ行く
・スイカ割りをする
・日焼けをする
・青空を写真に収める
・月や星を見る
…etc.
次から次へと思い付く
そして段々悲しくなっていく
有りもしないことだと解っているから


―――常雨の国


              #29【明日、もし晴れたら】

7/31/2023, 7:44:33 PM

「好き」で一緒になったけど
一緒にいると嫌な所ばかり目について
だんだん「嫌い」が増していく

「嫌い」が増していくと
見る見る内に
心が蝕まれて行くのが解る

心を守るために
会うのは年1くらいが丁度良い
エンカウント率低めのレアキャラ的な

レアキャラだとさ
遭遇した時の嬉しさハンパないよね
大切にするし丁寧に接する

接し方なんてエンカウント率に関わらず
日々丁寧であるべきって思ってるでしょ
でもね「嫌い」な奴相手には無理なのよ

これ以上「嫌い」が増さないために
出来る限り会う回数を減らす
それが心を守る最後の手段

アナタをどんなに愛していても
アナタにどんなに言葉を尽くしても
アナタは決して変わろうとしない

だから


―――理由


            #28【だから、一人でいたい。】

7/30/2023, 2:35:33 PM

ここはきっと夢ん中や。こんなん現実なわけが無い。
どこまでも果てがない、だだっ広い空間。色は見渡す限り白。そこにポツンと「人は」自分1人。
「人は」言うたんには訳がある。人やないもんが同じ空間にいてるから。
大きい眼がこっち見てくる。直径1mくらいの眼球が1つ、宙にプカリと浮いてる。瞳がこっち向いてるから、わたしはこの眼に見られてる、そう判断した。
これはたぶん、人の眼。瞳の色は緑。カラコンってわけやなさそうやから、たぶん外国人。瞼もないから情報は以上。でも何や少し見覚えがある気がする。
さて、どうしたもんか。
眼の後ろがどななってるんか気になって見てみようとしたけど、眼の方もこっちの動きが気になるみたいで、ずっとこっちを見てくる。どんなに走っても走っても、結局、見つめ合ったまんま。

しゃあないから、諦めて寝ることにした。走りまくって疲れたし、もうこれ以上、何もすることないんやもん。
眼に声を掛ける。「疲れたし、わたし寝るわ。アンタのその瞳、めっちゃキレイな。オヤスミ。」

おはようさん。おばあちゃんに声掛けられて目が覚めた。ほら、やっぱり夢やん。
どないしたん、それ。って、おばあちゃんが笑いながら言う方を見たら、布が被せられた箱。その時気付いた。そうや、あの眼、この子やん。
布を取って改めて対面する。キレイな緑の瞳。「ゴメン。わたしが布なんか被せたから、気になって夢ん中まで見に来たんやんな。もうこんなことせえへんから。ほんまゴメン。」「やっぱりアンタのその瞳、めっちゃキレイな。」
おばあちゃんが後ろで、朝ごはんにしよか、言いながらカーテンを開けた。
緑の瞳がこっちに向いてキラリと光った気がした。


―――Bisque doll


                   #27【澄んだ瞳】

7/29/2023, 10:38:42 PM

     私には使命がある。
     コレを届けるのだ。
     コレさえ届けられたら、
     この命が尽きても構わない。
     相棒がコレ待っている。
     コレが何なのか、
     私は知らされていない。
     でも。
     コレがあれば、
     戦争が終わるかもしれない。
     コレがあれば、
     命が助かるかもしれない。
     コレを届けるのだ。
     たとえ嵐が来ようとも。


     ―――Carrier Pigeon
     


         #26【嵐が来ようとも】

7/29/2023, 9:48:21 AM

夜の帳が下りる。
櫓から、四方に延びた提灯の列に明かりが灯る。
太鼓・三味線・笛の音、男女混声の唄。祭囃子が辺りに響き渡る。
「死者に逢える盆踊り」
そう噂される地元の盆踊りは毎年、全国各地から大勢の人が押し寄せる。みんな、逢いたい人がいるんだな…。斯く言う私も、今年に限ってはその仲間入りだ。

その知らせは4ヶ月前。陽気な春の昼下り、突然のことだった。
友人からかかってきた1本の電話。もたらされたのは、恋人の死。たちの悪い冗談かと思った。少し遅いエイプリルフールとか。笑って流そうとしたが、流させてもらえなかった。
恋人の死、それは紛れもない事実だった。
世界から色が消え、私は抜け殻となった。
しかし、抜け殻であったとしても日常は待ってはくれない。抜け殻のまま家のことをこなし、抜け殻に笑顔を貼り付けて仕事をこなした。
そうしてようやく日々を過ごしていたが、恋人のこととなると、その抜け殻さえ崩壊した。医者や警察の話であっても、上手く聞き取れない。ああ、人ってこんなにも呆気なく死んでしまうものなんだな…と薄らぼんやり思考を巡らすばかりだった。
世界の色は消えたままだ。

恋人の死から3ヶ月ほど経った頃、仕事からの帰り道、何処からともなく太鼓と三味線の音が聞こえてきた。
盆踊りの練習が始まったのか。そうだ、盆踊りだ。恋人に逢えるかもしれない。そう思った瞬間、世界に色が戻った。
地元だというのに、これまでろくに参加してこなかった盆踊り。「死者に逢える」というのがどういうことなのか、よく知らないどころか胡散臭いとさえ思っていた。でも今年は逢いたい人がいる。ちゃんと調べてみようと思い、お囃子を練習している公民館へ行ってみた。
入口に近付いたその時、中から人が出てきた。あの時、電話をくれた友人だ。驚いたような顔を向ける友人に向かって、久しぶり、と声をかけた。

そうか、と友人が言った。今年の盆踊りでどうしても亡くなった恋人に逢いたい、そう伝えたのだ。
友人は代々お囃子を担う家の生まれで、今は太鼓を担当しているらしい。渡りに船とばかりに、「死者に逢える」ことについて詳しく聞いた。
死者と逢う為の決まり事は、
一、盆踊りは必ず面をつけること。
二、もし逢えても、面を外してはならないこと。
三、もし逢えても、会話をしてはならないこと。
四、もし逢えても、踊りの輪から外れてはならないこと。
五、祭囃子が終わったら、必ず相手から離れること。
この5点を厳守すること、だった。
もし守らなかったら?と問うと、戻って来れなくなるよ。友人はそう言って、悲しそうに笑った。
詳しく聞きはしなかったが、きっとそういう話を知っているのだろう。

夜の帳が下りる。
櫓の周り、提灯の下。死者に逢いたい人たちの輪に入り、祭囃子に合わせて見様見真似で踊る。全ての人が面をつけているから、どれが誰だか解らない。異様な空気感の中、踊り続ける。
しばらくすると、輪の外にいたはずの人たちが見えなくなった。ああ、時が満ちた、そう感じた。踊っている人たちの隣にぼんやりとした輪郭が次々と浮かび上がる。そして私の隣にも。
面をつけているが解る、これは私の恋人だ。同じ空間同じ時を過ごせることの幸せを噛み締める。
しかし、面を外せず会話もせず踊りもやめられず、そんな状況に耐えられなくなった私は、面を取ろうとした。その瞬間、恋人がそれを止め、斜め前を指差した。そちらに目を向けると、私と同じ様に耐えられなくなったであろう人が、面を外していた。するとどうだろう、その人は顔を苦痛に歪めながら消えてしまったのだ。
驚き恋人の方へ顔を向けると、首を横に振った。涙が止まらなかった。恋人も泣いているのが解った。
どれくらい踊っていたのか。とうとう祭囃子が止まった。恋人と抱きしめ合い、そっと離れた。
輪の外のざわめきに気付き目を向けると、いなくなっていた輪の外の人たちが戻っていた。ああ、終わったんだ。そう悟った。
振り返って見る勇気はなかった。でもそれで良いと思った。

あの時止められていなかったら。私はこちら側へは戻って来れなかった。恋人に「生きてくれ」そう言われた気がした。


―――祭の夜


                    #25【お祭り】

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