傾月

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ここはきっと夢ん中や。こんなん現実なわけが無い。
どこまでも果てがない、だだっ広い空間。色は見渡す限り白。そこにポツンと「人は」自分1人。
「人は」言うたんには訳がある。人やないもんが同じ空間にいてるから。
大きい眼がこっち見てくる。直径1mくらいの眼球が1つ、宙にプカリと浮いてる。瞳がこっち向いてるから、わたしはこの眼に見られてる、そう判断した。
これはたぶん、人の眼。瞳の色は緑。カラコンってわけやなさそうやから、たぶん外国人。瞼もないから情報は以上。でも何や少し見覚えがある気がする。
さて、どうしたもんか。
眼の後ろがどななってるんか気になって見てみようとしたけど、眼の方もこっちの動きが気になるみたいで、ずっとこっちを見てくる。どんなに走っても走っても、結局、見つめ合ったまんま。

しゃあないから、諦めて寝ることにした。走りまくって疲れたし、もうこれ以上、何もすることないんやもん。
眼に声を掛ける。「疲れたし、わたし寝るわ。アンタのその瞳、めっちゃキレイな。オヤスミ。」

おはようさん。おばあちゃんに声掛けられて目が覚めた。ほら、やっぱり夢やん。
どないしたん、それ。って、おばあちゃんが笑いながら言う方を見たら、布が被せられた箱。その時気付いた。そうや、あの眼、この子やん。
布を取って改めて対面する。キレイな緑の瞳。「ゴメン。わたしが布なんか被せたから、気になって夢ん中まで見に来たんやんな。もうこんなことせえへんから。ほんまゴメン。」「やっぱりアンタのその瞳、めっちゃキレイな。」
おばあちゃんが後ろで、朝ごはんにしよか、言いながらカーテンを開けた。
緑の瞳がこっちに向いてキラリと光った気がした。


―――Bisque doll


                   #27【澄んだ瞳】

7/30/2023, 2:35:33 PM