みんなが学生時代に感じるはずの、この熱い鼓動を俺は年甲斐もなく今感じている。おかしいと笑われるか。バカだなって引かれるだろうか。
もうそれでも良いと思った。今の俺が、とんでもなく幸せなんだから、そんな外野の意見はどうでもよかった。
/熱い鼓動
日々は無計画に進んでいる。予定通りが起きないから、忘れられない日々になる。すべての歯車が狂ってしまって、タイミングを逃し続けた上に、今の自分がいるのだ。
解けなかった問題が、間違えてしまった言い方が、乗り過ごした電車が、こぼしてしまったお茶が、言えなかった言葉が、私の全てを作ってゆく。
失敗して、間違えて、私が私になる。
後悔で眠れなかった夜だって、いずれ私の一部になる。
/タイミング
抱きしめる彼と抱きしめられた私のサイズ感は、あまりにも自分たちに馴染んでいる。失うと分かっているからか、馴染んでいるなと思った。好きだなと思った。
半袖から覗かせる見慣れた白い肌が、もう私を抱きしめないんだと思うと、途端に悲しくなった。身勝手だと叱られるだろうか、怒られるだろうか。自分本位なのは、痛いほど分かっている。
私が泣くのを堪えれば、心配そうに眉を顰めるその眉間の皺すらも、私は愛おしくてたまらないんだ。
/半袖
がむしゃらに生きていく内に忘れていたのかもしれない。実家に帰ると当たり前に晩御飯があっておかわりだってある。風呂が炊いてあって、ついでに洗濯するけど?と言われる。
あぁ、自分はこの家で育ったんだと当たり前ながらに気づいていく。そう思えば、ここに居たんだ。足りないピースが一つハマるような納得のいく感覚だった。
まるで愛されている。気付かないくらい当たり前に。
私が彼氏に向ける愛より深くて手厚い。
本物の愛は、いつだって変わることなくここにある。
/true Love(本物の愛)
頭が動かないのは寝起きだからだろうか。
「や、あの、ちょっと、え?」
「そんなに焦るなよ」
そう言って余裕そうに笑う姿と自分の焦り具合の差異に悔しく思う。けれどもそれが自分に向けられている言葉だと思えなくて、脳みそが咀嚼を拒んでいる。
「ちょまって、」
「もうこれ以上、まぁまたいつか、って逸らされたくないんだよ」
相手の目は冗談とは思えないほど本気だった。それは自分が惚れた顔で間違いない。
「それはごめん。よし覚悟決まった。もう一回言って」
そう言えば、相手は柔らかそうに笑ってでも覚悟を決めたように唇を噛み締めた。そして世界で一番好きな笑い方をして、震える声でこう言った。
「俺と、結婚してください」
/またいつか