餓鬼には呆戯く権利もねえで、
病んぢまいそうなゆめうつつ
ただ既に過ぎた惨状に耳を傾ける
傷を嘗め合い生きるような
瀬戸際の今日で話をしていた
誰が許さぬ逢瀬だろうか
明くる日君は首を吊った
ベランダの柵に紐を通して、
飛び降りるように発ったらしい
ただ残った無力は容赦もせずに
この命の影響力を知らしめた
何もできなかった小さなこの身と
この身を生かす小さな命
《小さな命》
彼女は結局柵ごと落ちて
3m下の木々に救われ生きていた
雨の降る日は畳に伏して
この世の循環とは何たるかを
ただただこの身に刻み込む
その双眸越しに、己の過去を見ている。
まるでわたしが水子に成り損なったのを、
見抜かれているような、
指摘されているような、
酷く懐かしく、心が騒がしくなるその瞳に
逃れるように、口を開いた。
これは零からの、0からの、nilからの、
無に成る筈だったわたしからの、
音のない
さ
え
ず
り。
《0からの》
いいなあ、お前は。
家がなくても、親がなくても、
お前は山羊で、それが当たり前なんだから。
いいなあ、お前は。
覚えてなくても、辛くなくても、
お前は山羊で、それで生きていけるんだから。
いいなあ、お前は。
傷があっても、傷がなくても、
お前は山羊で、周りも山羊だ。
他には誰も、何も知る由なんてない。
――人間様は社会的だから、
家がないとか、親がないとか、
いちいち溢れて、咎められて…
その点やっぱり、
いいなあ、お前は。
ものも言わない、いいなあ山羊は。