月を見上げると
冬は真っ青な月
新月の前には
約束をしたい
会おうよ
会おうよ
何度も何度も
今宵も
真っ青な満月
果たされなかった
真っ黒な雲に覆われる
光に手を伸ばしても
ココアを飲むころには
自販機のよこに君がいて
それは
よろこびと一緒にくる
終わりも予感させて
どこに行こうとも
また会えるよ
そう喋るたびに
まるで言い聞かせてるみたいで
余計にさみしくなっていた
約束は出来ないものが多いのはずっとそうで
ずっと、永遠、変わらない、という言葉は
まるで力をもたないという現実に
どうか打ち勝ってほしい
ココアを飲みながら 果たせなかったことを
ただの思い出にして 勝てなかったことたちを
何も決められないのにしたいことはあるのに何かを捨てることが必要とはわかっているのにそれは何を捨てていくべきかということかそれは犠牲になるということなのか、わからない。
大人になればなるほどにわからないことだらけで10代のころの方が色々なことをわかっていたと思う。
わからない、その渦中で生きはじめる大人たちが多分本当はわかっているということを、わからない、として何かしらをまわしている。
わからないままのほうが、私たちはきっとよくて、たぶん曖昧だからこそのしあわせを享受できている。わかることが正解でないということだけはわかっている。
そんなことよりも、わたしは何かを捨てなければいけないし、人生は捨てることだとか、捨てられない人たちを莫迦にしたりとか、とても恥ずかしい心を持ったまま今日を迎えてしまった。本当は、捨てられないといういじらしい人間らしさについて、認めたかったし、自分の中にもあるということを受け入れてあげたかったんだと思う。
時間とかお金とか家族とか恋人とか、すべてなんてきっと無理だろうし、全部を手に入れている人が見えるのは見せたくない部分からトリミングされているものを私たちは見ていて、それで、何も持っていないような気がして、何かを捨てることに敗北感をおぼえているのかもしれない。
トリックアートみたいなSNSが世界になってから、自分が苦しくなったと思うし、そういう人たちを軽蔑する人たちのふりもしなければいけないから忙しいんだと思う。
どうでもいい、に行き着くことのむずかしいこと。
わからなくて、むずかしくて、とりとめもなくて、結局目の前のことについての時間を、こうやって広大な空間に放り投げて、同じだけ捨てている。
愚かだと言わないでおきたい。
人間らしいと言っておきたい。
まちがったとおもった。あまかった。そうだ、エアコンの設定温度を22℃にして耐えられる寒さなわけがなかった。声が出ない。師走だというのに、動けなくなったら、何言われるか…。
会社に電話をする。-病院に行くので…と、言うのは、少しでも生産性のある行動をとるということの宣誓だった。
病院に行っても駄目なら、少しはゆるしてくれるんじゃないだろうか、甘いだろうか。そもそも、こんなにつらい中で、病院に行かなきゃ行けないこと自体、本来の自己管理よりも会社管理な気がして余計に気分が落ちる。関節がいたい。
子供の頃は、風邪をひきたかった。合法的に休めるのは嬉しかった。うどんとアイスクリームを食べさせてもらえるし、朝起きなくてもよかった。
子供の頃の方が、朝が怖かった。
病院で待つだけで、何かが吸い取られていくような気がする。明日も休むしかないだろうな。みんな自分だって風邪ひいたら同じこと思うだろうに、無理して出社するやからのせいで、正当に休む人間が批判される。
具合悪いのに、登校して、熱があってつらいって言いながら授業受けてる人を私は心底嫌いだった。
無理することが、どうして、偉いというのだろうか。
ばかみたい。そういう人間が、私の正当な休みをきっと批判するんだ-と思っていたら、点滴が終わる。
少しだけ軽くなった体。コンビニで好きなものを買い込む。食べたいものを食べればいい。食欲ならある。明日お腹を壊しても、風邪のせいにすればいい。
もう病院に行ったんだ。
私の管理下で、私は正当に休むんだ。
どうしても上がらない成績についての弁明を思案しながら夕焼けのしたをくぐるように自転車を漕いでいる。やればできる子、やれば、やればね…そうため息をつくことが増えた母親は、私ができる子の方だと思っていたみたい。中学三年生になり、家庭内にはあきらめという空気が清浄機から外されていく。
もうすぐ、自転車登校の出来ない季節になる。
朝は暗い、寒い、というのに、夏よりも早起きをしなければならないというのは、どうしてそうやってまぎらわせて今日まで世間を回してきたのかと、歴史について、説教をしたくなる。いい時代かもしれないけれど朝はつらい。
今日こそ、8時から11時までは勉強して、12時には寝る。A高校に行けるって中学一年生の頃は思っていたし、モチベーションだって高かった。けれどそれも夏休みまでで、だんだんと、宿題だけやればいいやと思って予習をしなくなって復習をしなくなって試験前に午前3時まで勉強して30点以上はとるようにした。
友達と好きな人がかぶったこと。夏休みに判明したのも、友達が私の好きな人と夏期講習の帰り道を一緒に歩いていたからだった。何もかもがどうでもいいって思ってから今日まで勉強にも手がつかなかった。
という、言い訳が将来の私を苦しめるかもしれない。A高校に行けたら、もしかしたら友達から彼を引き剥がせるかもしれない。友達はB高校志望だったから。でも私の担任は私を安全にB高校に入れたいと思っているし、親もそう思っている。
仮にA高校に行けたとしても、授業が大変で、彼を奪うチャンスもないかもしれない。
家に着く。すでに空は群青になって、残り香みたいな日の光だけが見える。
弁明を思いつかなかった。
「遅かったね。」母親が玄関で迎えてくれる。
「うん。あのさ…やっぱり、B高にするよ…」
弁明が思いつかないから、進路ごと変えるしかない。何もかもにやぶれて、夜なんか明けなければいいと思って、志望校を変えたから、もう8時から11時まで勉強なんてしなくてもいいと思った。
「来週、雪降るみたいよ。もうそろそろ自転車はやめておきなさい。」
進路変更について、母は驚くこともなく「ああそう。頑張りなさいね。」とだけ言った。
どうせなら、たくさん積もればいい。
友達と彼の歩いた道を洗えるほどには。