「6月に『あじさい』書いたのは覚えてる」
あとは何だろな。去年は「ワスレナグサ」とか「花束」とか、そういうお題もあったかな。
某所在住物書きは過去のお題を確認して、
次に、ネットを検索した。
「一輪の」から歯車だのタイヤだの、そういうのに繋げられないかと考えたのだ。
一応「花車」なる単語はあるらしい。
タイヤではない。数え方もきっと、「一輪の花車」ではなく、「一台の花車」だろう。
――――――
3連休も、とうとうおしまい。
楽しかった思い出は、花瓶にさしていた一輪の花が、寒さに当てられて枯れるように、
一瞬の早さで、過ぎていきます。
ということで今回のおはなしは、そんな3連休中の美味しい美味しい思い出に関するおはなし。
「ここ」ではないどこかの世界に、「世界線管理局」なる厨二ふぁんたじー組織がありまして、
そこはビジネスネーム制を採用しておりました。
ちなみに今回のお題回収役は、ドワーフホト。
3連休の東京の、美味しい美味しいキッチンカーイベントに突撃しまして、
あたたかいビーフシチューに甘いお団子、ガッツリお弁当セットなんかも食べて食べて、
最高の連休を、堪能したのでした。
ただ友達のスフィンクスのために、お土産で買ってきたバタフライピーのティーバッグが、
長期保存に耐えるための乾燥ティーバッグなので、
キッチンカーでは一緒に飾られていたバタフライピーの花も、入れるだけでお茶の青を紫に変えたレモン果汁も、何も、なにも、無いのです。
「あのね、あのねぇぇ、」
青く美しいホットなお茶を、耐熱ガラスのティーカップに淹れて、ドワーフホトが言いました。
「キレイだったの、すごく、すごぉく、キレイだったの。スフィちゃんにも見せたかったのにぃ……」
こんなモンじゃ、ないんだよ。
もっともっと、一輪の花っていうか、青い八重咲きのアサガオみたいな、おっきいお花がカップにさ。
それが、レモン果汁が沈んだ場所から、
段々紫色に変わっていくのを見せたかったのに。
わぁん、わぁん。
ドワーフホトは真っ青な、耐熱ガラスのティーカップを友だちに差し出して、
苦悶するように、テーブルに突っ伏すのでした。
「ふーん。一輪の花ねぇ」
キッチンカーで見た芸術を、共有できないことにモヤモヤするドワーフホトを、
ドワーフホトの友達、スフィンクスが見つめます。
「まぁ、『一輪の花』は、さすがに無理よな。
でもな、ホト。バタフライピーを青から紫には、俺様、これができるんだわなぁ」
ヒヒヒ。まぁ、見てろよ。
スフィンクスがどこからともなく、小さな小瓶を取り出しまして、中身をトントン、カップに投下。
「なぁに、これ」
「んー?星くず」
「ほしくずぅ?」
それは、小さく砕かれた乾燥ゆずピールでした。
小さな小さな、とても小さな金平糖くらい。ゆずの皮は青い水面に降り注いで、その青を吸いまして、
徐々に、じっくり、ゆっくりと、
バタフライピーの青を、青紫に変えてゆきました。
青紫の上にパッと映える薄黄色は、
まさしく、夜空に散らばる星くずのようでした。
「茶ァに一輪、花浮かべるのもキレイだけどよ」
ヒヒ、ひひひ。スフィンクスは自慢げに笑います。
「星くず展開するのも、おまえ、好きだろ?」
ホラ飲めよ。きっと、ゆずが香るから。
一輪の花の代わりにゆずピールを散りばめたカップを、スフィンクスがドワーフホトに返します。
ドワーフホトは、それはそれは嬉しそうに、
ティーカップに浮かぶ星くずを、見ておったとさ。
「魔法瓶、掛け算の魔法陣、原子核物理学で言えば魔法数とか魔法核。シミ抜きとかの洗濯系なら、魔法水ってのもあるらしい。
けっこう現実世界に存在するのな。『魔法』」
まぁ、事実、俺も世話になってるわな。
某所在住物書きはいわゆる「魔法瓶」から、温かい茶をトポポ、タパパ。カップに注いでいる。
魔法の◯らんどに関しては何とも言えない。
この物書きは森頁の派閥であった。
◯年前の黒歴史である。
「魔法核か」
物書きは「魔法」の検索結果を、その1点を見た。
「この言葉で、物理学用語か……」
ところで厨二とチートと魔法の違いは?
――――――
前回投稿分からの続き物。この3連休のおはなしです。都内某所のおはなしです。
不思議な稲荷の餅売り子狐が、餅巾着の納入先から5千円札のお駄賃を貰いまして、
近所のキッチンカーイベントで美味しいものを堪能すべく、人間に化けて潜り込みました。
「コンちゃん、チケット盗まれちゃダメだよぉ!」
子狐と一緒にイベント巡回のタッグを組むのは、
子狐が「子狐」であることを知りつつお餅を買ってくれる、人間の常連さん。
ビジネスネームを、ドワーフホトといいます。
子狐にとっては、お化粧が上手なお姉さんです。
「迷子にならないようにー、ちゃんと手を繋いで」
ドワーフホトも子狐も、美味しいものがとっても大好きな、食いしん坊!
お互いがお互いに、食べたいものをダブらぬよう、
キッチンカーで頼んでチケットを払って、
一緒に、分け合って楽しむ魂胆です。
「だいじょぶだよ」
くっくぅくぅ、くっくーくぅ。
コンコン子狐、鼻歌うたってドワーフホトの、左手をしっかり掴みます。
「キツネから、チケットぬすむやつは、
みんな、みんな、みぃーんな!たたってやるもん」
さすが稲荷の御狐様。言うことが物騒です。
でもこれじゃあ、「祟り」であって「魔法」ではないので、そろそろお題回収に入りましょう。
「あら。いらっしゃい」
まず子狐とドワーフホトは、シックでレトロなキッチンカーに立ち寄りました。
そこでは、本物の魔女が切り盛りしている喫茶店の店長さんが、魔法の大釜にくつくつビーフシチューを入れて、弱火で煮込んでおりました。
「今日はね、お手伝いさんを雇っているの。
料理、初めてなんですって。包丁も持った経験無いらしいの。もうカワイイのなんのって」
俺だってナイフくらい持ったことはある。
厨房からなにやら、ドワーフホトにも子狐にも、聞き覚えのある男声がします。
1人と1匹は相談して、子狐のチケット1枚で、まず魔法の大釜からビーフシチューを貰いました。
「おお!ホトじゃねぇの。一番人気買ってくか?」
次に子狐とドワーフホトは、ミカンと猫の模様が可愛らしいキッチンカーに立ち寄りました。
そこでは、水晶の文旦が美しく、魔法のように輝いて、周囲を優しく暖かくしておりました。
「いや、実はな、俺様の宝物の日向夏の、新しいチカラを試してみようと思ってだな」
水晶文旦と日向夏を接続して、このキッチンカーに繋いでだな云々、そしたら見事にかんぬん……
どうやらこのキッチンカー、ドワーフホトの友達が出店していた様子。
1人と1匹は相談して、ドワーフホトのチケット2枚で、「先代のお食べんとう」と「先代の味噌汁セット」を貰いました。
「待ってたよ!とりおき、しといたよ!」
そして子狐とドワーフホトは、抹茶とあんこみたいなラッピングのキッチンカーに立ち寄りました。
そこでは、子狐の友達の化け子狸が、人間に化けて実家の和菓子屋さんのお手伝いをしておりました。
「来ると思ってたんだ。やっぱり来た。
はい!焼きたて、できたての、お団子セット!
数量限定のオリジナル魔法瓶カップ付き!」
丁度甘いものが足りないと思ってたんだ!
子狐とドワーフホトは即決です。
1人と1匹は相談もなく、子狐のチケット1枚とドワーフホトのチケット1枚で、
魔法瓶カップ付きのお団子セット、しょっぱセレクションと甘セレクションを1個ずつ貰いました。
「コンちゃん。次、どこ行こっかぁ」
甘いもの、しょっぱいもの、あたたかいもの。
美味しい魔法をどっさり持って、ドワーフホトがにっこり、子狐に笑います。
「ひとまず、たべる!」
甘いもの、しょっぱいもの、あたたかいもの。
幸せな魔法をたっぷり抱えて、子狐もにっこり、ドワーフホトに笑います。
そうだね。いったん、食べちゃおう。
1人と1匹のキッチンカーめぐりは、一旦休憩。
互いに貰ったものを持ち寄って、コレちょうだい、アレあげる、ソレおいしいよと幸福に、
魔法のような時間を、共有しましたとさ。
「『書く習慣』、たしかに空ネタと雨雪ネタは、確実に多いとは思ってたけどさ……」
まさか虹が出づらいとされる「冬」に、虹のお代を持ってくるとは思わんかったわな。
某所在住物書きはネットの検索結果をスワイプ、スワイプ。窓の外も時折見て、呟いた。
虹は夏に出やすく、季語にもなっているらしい。
日本海側では晩秋から初冬にかけても見られるらしいが、2月の今は明らかに晩冬。雪の粒では光が屈折しないから虹は見られない。
なにより冬は、春や夏に比べて、日の光が弱いため、虹そのものが発生しづらいという。
――その冬の虹を、「君と見」るのか?
「まぁ、ロマンチックでは、あるわな」
ところでソシャゲのガチャでは、最高レアの確定演出が、だいたい「虹」だった気がする。
「ピックアップ対象である君と見た虹演出?」
ひと、それを「すり抜けフラグ」という。
――――――
前回投稿分からの続き物。
最近最近の都内某所、某稲荷神社敷地内の一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしておりました。
そのうち末っ子の子狐は、善き化け狐、偉大な御狐となるべく、稲荷のご利益ゆたかなお餅を作って売って、絶賛修行中。
今朝も取引先の、古い大オロチのおでん屋台に、どっさり、餅巾着を納品したきたところ。
日頃の頑張りが認められて、お駄賃たっぷり!
5千円のピン札を、大オロチのおでん屋さんから貰ったのでした。
ところで新デザインの5千円札、ホログラムの帯が虹みたいですね?(お題回収の布石その1)
「キレイだな。キレイだなぁ」
コンコン子狐、小ちゃなお手々でピン札を、持って傾けて、縦な帯状のホログラムもとい虹を見ます。
「よし、きょうはゴーユー、豪遊するぞ!」
丁度、その日は3連休。
あっちこっちで晩冬の、晴れた寒空を背景に、いろんなイベントの真っ最中です。
「あそこに、いこう」
コンコン子狐、屋外の公園で開催されているキッチンカーイベントにロックオン!
「いろいろ、いっぱい、たべるぞ!」
しっかり人間に化けて、かわいい狐耳も狐尻尾もちゃんと隠して、5千円札をしっかり持って、
キッチンカーイベントのチケット売り場へ……
ところで今回のお題、「『君と』見た虹」ですね?
(お題回収の布石その2)
「うぅー。5千円で、何台まわれるかなぁ」
コンコン子狐がキッチンカーイベントの、チケット売り場に到着しますと、
子狐のよく知る人間の女性が、5千円札1枚持って苦悶の表情を浮かべておりました。
「デザート系は全部食べたいけど、でも、ホットドリンク系は気温的に欲しいし〜、
うぅぅぅ。予算がぁ、よさんが、足りないぃ」
子狐がお餅の訪問販売をしている組織の常連さんです。お化粧がとっても上手なお姉さんです。
子狐と同じく、食いしん坊さんなのです。
「スフィちゃんにも、おみやげ、買いたい……!」
ふむふむ。子狐は理解しました。
あのお得意さんも、予算5千円でもって、いろんなキッチンカーの美味を色々食べたい様子。
さぁ、今こそお題を回収しましょう。
コンコン子狐と常連さんとで、一緒に、お札のホログラムもとい虹を見るのです!
「おけしょーの、おねーちゃん!」
コンコン子狐、隠している狐尻尾をブンブンぶんぶん、振り倒す勢いで常連さんに突撃します!
「いっしょに、わけあいっこ、しよう!」
「コンちゃぁん!!」
子狐の声と、子狐が持っているホログラムに気付いた常連さんは、歓喜の声を上げました。
「そうだね、一緒に料理、分け合いっこしよぉ!」
全部で1万円だよ!何でも食べられるよ!
常連さんが良い笑顔で、縦のホログラムが付いた5千円札を掲げます。
いちまんえん!いちまんえん!
コンコン子狐も良い笑顔で、同じホログラムが付いた同じお札を掲げます。
キラキラ、きらきら。晩冬の寒空に2枚の縦ホログラムは美しく虹色に輝いて、
子狐と常連さんは2人して、幸福に、縦ホログラムが作り出す虹を、数秒、見ておったとさ。
「夜としてのお題は、これで8個目。空のお題としては9個目だな」
夜、空、星。「書く習慣」は本当に空のネタが豊富。某所在住物書きは過去のお題を数えた。
1月7日から新しいお題配信方法になったようだが、配信ジャンルに過度過剰な変動は無い。
たとえば空や恋愛系のネタが多いとか。
あるいはエモエモ系、ロマンス風、ファンタジーちっくなお題もよく含まれるとか。
今回のお題がまさにそのひとつ。
「流れ星の他に何が『夜空を駆ける』って?」
それを考えるのが物書きの作業である。
――――――
山のツーリング、エアキャビンやらゴンドラやら、あるいは最近話題のジップライン。
夜空を駆ける方法は、色々あるものです。
今回は様々存在する方法の中から、ド直球に「夜空を駆ける」おはなしをご用意しました。
最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。某稲荷神社敷地内の一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしており、
そのうち末っ子の子狐は、善き化け狐、偉大な御狐となるべく、絶賛修行中。
稲荷のご利益ゆたかなお餅を作って売って、社会と人間とを学んでおったのでした。
最近は、子狐の餅づくりのスキルもだいぶ上がり、
古い大オロチのおでん屋台に、おでん種としての餅巾着を納品し始めたところ。
その日は始めての、期間内に餅巾着がいくつ売れて、お客さんの反応がどうであったかを、
大オロチのおでん屋台さんから聞く約束の日。
「いそげ!いそげっ!」
コンコン子狐、古い大オロチのおでん屋台の、店主が待っている奥多摩の山に向けて、
雑居ビルの屋上を走り、貸しオフィスと貸しオフィスの間を跳んで、夜空を駆ける、駆ける!
「いそげ!いそげっ!」
大きな街路樹は、特に太い幹は、子狐の通り道。
文字通り、お題どおりに、餅売りの稲荷子狐、夜の東京を駆け抜けるのです。
時折、足場も何も無い、本当の「夜空」を駆けているカンジもありますが、
そこはほら、この子狐、不思議な稲荷の子狐ですので。そういうことも、あるのです。
どだだだだ、とたたたたた!
コンコン子狐は尻尾を少し上げ、耳を畳んで、
それはそれは嬉しそうに、古い大オロチのおでん屋台の、店主が待っている山へ、走ってゆきます。
子狐が納品した餅巾着は、絶品の自信作。
過去作2月11日あたり投稿分のあたりで5回もリテイクして、おでん屋台のダシに合うように調整したお餅なのです。美味しくないワケがない。
「おじちゃん!おじちゃん、こんばんは!」
夜空を駆ける子狐は、ビルを跳び、大樹を渡り、
美しく深い森の残る奥多摩の奥の奥、古びた蛇の祠の大穴に、ようやく到着しました。
「キツネのおもち、うれゆき、どうですか!」
『やぁ。まいどさん』
ズルリ、ずるり。 子狐のかわいらしい大声を聞いて、大穴の中から大きな大きなオロチが、
おでんのダシとお酒の、深く芳醇な香りを漂わせて、ゆっくり出てきました。
『良い知らせと悪い知らせ、どっちもあるよ』
まず、売り上げなんだけどねぇ。
おでん屋台の大オロチ、尻尾で小さな紙切れを、ちょいと子狐の前に出してやりました。
『売れ行きは、間違いなく好調なんだ』
大オロチが子狐に見せた紙切れは、
大オロチが子狐から仕入れた餅巾着が、3日と待たずすっかり全部、売り切れたことを示しています。
『好調なんだけどね』
ピラリ。大オロチの尻尾が、2枚目の紙切れを子狐の前に出しました。
『あのね。おまえさんのお父ちゃんが、ほぼほぼ初日に、大量に買っちまったんだよ……』
ほら、見てごらん
大オロチが子狐に見せた2枚目には、
誰が、何日目に、何個子狐の餅巾着を注文したか、ちゃんと記録されていましたが、
子狐の餅巾着を食べることができたのは、たった2人と2匹と1柱。
しかも全餅巾着の8割を、たった1匹が1匹して、ぺろり、1日で食ってしまったのです!
その1匹こそ、子狐の父親でした。
「ととさぁぁぁぁん!!」
もう、ととさん、ととさん!なんてことを!
子狐ぎゃんぎゃん!おててで頭をガジガジして、あんよをバタバタ暴れさせて、
悶絶して、転がって、吠えて騒いで、大オロチにヨシヨシされています。
お餅が売り切れたのは、素晴らしいことです。
でもそのお餅を、「たくさんの人が買った」ことは、もっと素晴らしいことなのです。
それを、どんな理由であれ、子狐のお父さんが、ほぼほぼ買い占めていたなんて!
『次回は、前回の倍の餅巾着を、納品しておくれ』
ぎゃん!ぎゃぁん!泣いてるんだか吠えてるんだか分からない悶絶子狐に、酒好きなおでん屋台の大オロチ、優しくアドバイスしました。
『お前のお父ちゃんはね、なにも、ひとりで買い占めて、ひとりで食ったんじゃないんだ。
買い占めた餅巾着を、職場のキツネやタヌキやカラスの同僚におすそ分けしていたんだよ』
大オロチが最後の紙を、子狐に見せてやります。
そこには、5匹と3人くらいの名前が書かれており、つまり、次回納品分の餅巾着に、予約が入っていることを示しておったのです!
餅売り子狐は、さっそく夜空を駆けてゆきます。
今回の餅巾着は気合を入れて、たくさん、たくさん、作る必要がありそうでした。
「『届かぬ想い』、『過ぎた日を想う』、『たくさんの想い出』、それから『ひそかな想い』。
これで『想』シリーズは第4弾だわな」
「思う」と「思い出」も、無いことはないんだけどさ。今のところ2個しか無いんだよな。
某所在住物書きは過去のお題を検索しながら、ぽつり、ぽつり。
「思い」と「想い」の違いはこれまで何度もネットで調べた――要するにだいたい、特に公的文章では「思」でヨシとのことであった。
「ひそかな想い、おもいねぇ」
過去のお題、「過ぎた日を想う」で投稿した物語が、ほぼほぼそのままコピペして使えそうだと気付いた物書きは、ひそかに想像した。
これ、そろそろ過去投稿分だけでやりくりして行けるのではなかろうか。
「……いや無理だな」
――――――
前回投稿分から、続いているような、そうでもないようなおはなしです。
「ここ」ではないどこかの世界に、「世界線管理局」なる厨二ふぁんたじーな職場がありまして、
それぞれの世界が「それぞれの世界」で在り続けられるよう、独自性の保全に関するお仕事をしたり、
あるいは、他の世界への渡航申請を受理したり拒否したり、密航者を取り締まったり。
世界間の円滑な運行に関わるいろんな仕事を、しておったのでした。
「その世界は『その世界』であるべきだ」と、
「その世界の独自性を尊重すべきだ」と、
こういう立ち位置で仕事をしておると、だいたい出てくるのが反対の、多様性を掲げる敵対組織。
「発展途上世界には積極的に先進技術を!」
「滅んだ世界からの難民を受け入れよう!」
打倒管理局を掲げる彼等は「世界多様性機構」という名前の組織。
東京に「領事館」を置き、故郷が滅んでしまった難民を密航の形で連れてきて、心の傷をケアしたり、定住支援をしたり。
管理局の局員と深い付き合いのありそうな東京都民を、管理局への脅し材料として拉致して、
色々と、都民だの管理局だのに、迷惑をかけたりも、しておったのでした。
前回投稿分で普通の一般都民の部屋に、突然妙な組織が押し入ってきて、中のぼっちを縛ってしまったのも、実はコレが背景にあったのです。
ただ、そんな迷惑千万な多様性機構でも、
ひとつだけ、絶対、ぜったい、手を出してはならぬとキツく周知されている場所がありました。
都内某所の某私立図書館です。
図書館を建てた「すごく強い組織」との取り決めで、この図書館に勤めている者、この図書館の中に居る者は、絶対、どんな理由があっても、
危害を加えては、ならぬのです。
前回投稿分の一般都民は、この取り決めのおかげで、難を逃れたのでした。
さて。 「ここ」ではないどこかの、世界線管理局の殉職者慰霊棟、法務部フロアの某墓碑前で、
なにやらカニやら、誰かが近況報告していますよ。
「ねぇ先代さん。相変わらず、多様性機構の連中、セコいことやってるみたいだよん」
拭き拭き、ふきふき。
墓碑を掃除するその男、管理局内でのビジネスネームをカラスといいまして、東京での名前は付烏月、ツウキといいました。
「管理局に直接立ち向かっても勝てないから、管理局と繋がってる普通の都民を拉致る。
あいつら、十数年前から何も変わってないねぇ」
ね、先代さん。ホント参っちゃうよ。
カラスはそう言いながら、墓碑を掃除します。
「でも俺、『十数年前のあの日』は繰り返さないよ。今回だって、俺が根回し、したんだよん」
ここでようやく、お題回収。
実はカラスはその昔、一般の東京都民な女性と両思いになりまして、その女性を、機構に拉致されたことがあったのです。
一般女性を救出すべく、この墓碑の主とカラスは一緒に機構のアジトのひとつに潜り込み、
そして、墓碑の主が、亡くなってしまったのです。
同じ悲劇は繰り返さない。
「ひそかな想い」を胸に、カラスは前回投稿分より前に、先手を打っておったのです。
今回は機構が手出しできないように、「前回投稿分」で機構に縛り上げられてしまったひとを、
「図書館で一緒に働こう」、誘っておったのです。
「ねぇ、先代さん。良いアイデアだったでしょ」
拭き拭き、ふきふき。カラスは墓碑に笑います。
「ご褒美ちょうだいよ。美味い飯1回で良いよ」
墓碑はなんにも言いません。
カラスのひそかな想いを、受け止めて、それだけ。
近くではたまたま居合わせていた経理部の天才エンジニアが、自分が持ってきていた宝物、「美しい水晶の文旦」の淡い強い発光に、
ちょっとだけ、慌てておったとさ。