「『書く習慣』のお題ってさ。どうしても、現実軸の連載風に合わないお題が出てくるワケよ」
たとえば今回みたいな。某所在住物書きは言った。
「手のひらの宇宙」である。手のひらの海なら分かる。スマホによるネットウォッチングは「サーフィン」として海に例えられている。
手のひらの「宇宙」は何を書けば良いのやら。
「そういう、抽象的でファンシーで、ファンタジックでフォトジェニック系のお題を、『エモネタ系のお題』って呼んでるんだけどな」
要するに何が言いたいかというとだな。
物書きは小さく首を振り、ぽつり。
「そろそろこのアプリ入れて3年になるけど、
ホント、俺、不得意が克服できてねぇわ……」
――――――
手のひらに、鉄をひとつ、のせてみてください。
それは、どこかの恒星――自前で光り輝いていた大きな星が、滅びの最期の最後の爆発で、宇宙に放った「星による核融合の第一到達点」。
お題どおり、「手のひらの宇宙」なのです。
……と、いう高校だか大学だかで学習するかもしれない天文系・物理系のハナシは置いといて、
今日は、こんなおはなしをご用意しました。
「ここ」ではないどこかの世界に、「世界線管理局」という団体組織がありまして、
世界から世界への渡航申請の受付をしたり、
滅びそうな世界への渡航経路を制限・封鎖したり、
あるいは、滅んだ世界からこぼれ落ちたチートアイテムが、他の世界に流れ着いて悪さをしないように回収・収容したり。
ともかく、いろんな仕事をしておったのでした。
ところでこの管理局、ビジネスネーム制を採用しておりまして、経理部の皆様は全員猫の名前。
数ヶ月前に就職した新人は、マンチカンという名前を与えられて、ロシアンブルーのお姉さんをメインの教育係に据えられて、
それはそれは、一生懸命、仕事をしておりました。
「今日は、収蔵部の仕事を見に行くわよ」
先輩局員ロシアンさん、新人マンチカンを連れて、経理とは別の仕事をしている部署に対して、見学遠足を敢行します。
「連中が何をしているか、よく見ておきなさい」
収蔵部とは、滅んだ世界のチートアイテムを、文字通り収蔵したり研究したりするための部署。
既に滅んでしまっているマンチカンの世界の宝物も、この収蔵部で保管されています。
「どうして、収蔵部の仕事を見に行くんですか」
新人経理部マンチカン、メモとペンをしっかり準備して、ロシアンの後ろを付いていきます。
「伝票チェックの役に立つからよ」
先輩ロシアン、即答しました。
「相手の仕事を覚えておけば、経費をちょろまかそうとしていそうなデータに気付きやすいでしょ」
なるほどなー、とマンチカン。
しっかりメモに記入しました。
『ちょっとは相手の仕事も覚えよう』
さて。そろそろお題回収です。
収蔵部に到着したマンチカンが最初に見たのは、
「手のひらの宇宙」を手のひらにのせて、困惑気味に議論をしている収蔵部収蔵課の皆様でした。
「あのねぇ。収容班さんが言うには、最初はホントに『別の宇宙』が映ってたらしいのぉ」
収蔵課の局員さん、メモを見ながら言いました。
手のひらにのせた水晶玉は、真っ黒で、
コンコン叩くと砂嵐がザザッとはしって、
結局、また真っ黒に戻ります。
「でねー。収容班さんのハナシによると、『最初は他の宇宙の映像が見える水晶玉だったのに、定刻になって収容元の世界が閉鎖した途端、何も映らなくなった』らしいのぉ」
ザザザ、サラサラサラ。
手のひらの、宇宙を映していた筈の水晶玉は、相変わらず真っ黒で時々砂嵐。何も見えません。
「どうすんだよコレ。収蔵のために分類しようにも、能力が分からねぇし、どうにもなんないぞ」
他の収蔵課局員さんも、頭を抱えます。
「『以前は見えていたのに、定刻になって世界が閉鎖した途端映らなくなった』……?」
何か閃いたらしく、奥多摩出身の局員さんが、
考えて、考えて、手を叩いて言いました。
「『地デジ未対応のアナログテレビ』だ!
チューナー付ければ、この水晶玉、もしかして何かまた映るんじゃね?!」
「ちでじみ……?」
「ちでじみ対応?」
パッと走り出した、奥多摩出身局員さんを尻目に、
「こっち」の世界をよく知らない他の局員さん、完全に理解不能で目が点です。
「ちでじみって、なぁに……?」
「ゴメン。俺もわかんね」
手のひらの、宇宙を映していた筈の水晶玉は、結局その後1時間、何も映ることなく真っ黒でした。
その様子を見ていたマンチカン、何かをメモしようとペンを持ちましたが、
丁度そのとき、奥多摩出身局員さんが、収蔵庫から妙にデカい化石級の旧式アンテナを持ってきて、
ブスリ!水晶玉に装着。
「おお!」
「映ったぁ!」
「映った!??どこのなにが?!!」
水晶玉は手のひらに、どこかの宇宙を映して、キラキラ、きらきら。輝きました。
新人マンチカン、今度こそメモに、記録しました。
『ヒラメキは大事』
「『昭和・平成風のいたずら』、『ロシアンルーレット風のいたずらお菓子』、『気まぐれ風のいたずらサラダ:鶏出汁仕立て』。
言葉を追加すれば、いくらでも改変は可能よな」
いたずら菓子は、バレンタインネタに取っておくのも面白いな。 某所在住物書きはスマホのニュースを確認しながら、ぽつり、ぽつり。
スギ花粉の情報である。東京では1月8日から、既に飛散が始まっていたようだ。
「風のいたずらで、家の中に……」
ああ、もう、そんな時期なのだ。物書きは思う。
花粉症の民としては、試練の時期であろう。
――――――
最近最近の都内某所、杉林を抜けた先に隠れて佇む建物がありまして、
それは、「世界多様性機構」なる厨二ちっくファンタジーな組織の活動拠点でした。
世界多様性機構は、「ここ」ではないどこかの世界からやってきた、いわば異世界の組織。
滅んだ世界の難民を保護したり、その難民を他の世界に密航させてやったり、発展途上の世界に先進世界の技術を導入したりと、
色々、まぁまぁ、やっておりまして。
杉林を抜けた先の建物は、東京に避難させた異世界の難民たちが、東京で平和に生活できるようサポートするための支援場所。
名前を、「領事館」といいました。
ところでこの領事館の領事官、もとい館長さん、
異世界人なのですが、東京の領事官に着任して早々、スギ花粉症を発症してしまいまして。
しかもビジネスネームを「スギ」というのです。
「ぶぇっくし!! ぶぇーっくしょい!!」
異世界人のスギさん、デスクにロールティッシュと箱ティッシュを常備しまして、
難民さんのためのお仕事を、せっせとさばきます。
部屋ではぐぉーぐぉー、がーがー、家庭用の空気清浄機が花粉を検知して、
自分の本来の想定スペック以上に広い部屋を、頑張ってキレイにしております。
「おかしい。例年なら、『ヤツら』が飛散するまでまだ猶予があったハズだ」
業務用空気清浄機の予算を付けてもらえるように、ずっと、ずーっと、多様性機構の本部に要望書は提出しているのですが、
なにせ、「花粉症」を知らぬ異世界人がトップに座っている組織です。
なんなら、多様性機構と敵対している「世界線管理局」と違って、活動資金が潤沢に、あるワケではないカッツカツ組織です。
多様性機構には、カネがない!
「ちきしょう、いまわしい、管理局どもめ!
……ぐしゅぐしゅ。 ちーん」
館長のスギさん、敵対組織に恨み言など言いながら、鼻をかんでおりました。
「ヤツら」って、誰のことだろう。
管理局が関係してるのかな。
領事官の新人の、アテビにはサッパリ。
ただ自分の仕事、部屋の掃除を頑張ります。
掃除機かけて、ホコリを片付けて……
そろそろお題回収といきましょう。
「大変です、館長!」
スギさんの部下、アスナロさんが、慌てた様子で執務室に入ってきました。
「都内で既に、1月8日頃から、『ヤツら』の飛散が始まっているようです!」
手には「こっち」の世界の文明の利器、スマホ。
ネットニューが表示されたディスプレイには、こんな文言がデカデカと、表示されておりました。
『都内、早くもスギ花粉が飛散開始
統計開始以来最も早く 東京都』
「なんだと……!」
ティッシュがノールックシュートで大容量ゴミ箱に入ったのも構わず、館長のスギさん、大驚愕で開いた口が塞がりません。
そんなスギさんに、部下のアスナロさん、とどめとばかりに畳み掛けました。
「しかも今年の量ですが、多くなる予想です」
なんだろう。
アスナロさんもスギ館長も、酷く慌ててるなぁ。
新人アテビ、スギ花粉のことなど、知りません。
ただ自分の仕事、部屋の掃除を頑張ります。
ホコリの片付けも終わったので、窓を開けて……
窓を開けて??
「おい、アテビ!!なにやってる!」
「えっ?」
「窓を開けるな!『ヤツ』が、『ヤツら』が!」
ヤツら、スギ花粉が、入ってくる。
館長のスギさんが言い終わる前に、カーテンが揺れて部屋の空気が入れ替わり、
「風のいたずら」で、飛散し始めたスギ花粉が、スギさんの鼻と目にたどり着きます。
スギさんの免疫が、スギ花粉と過剰に戦います。
「ぶぇーっくしょい!ぶぇぇっくしょぉい!!」
スギ花粉症を初めて見たアテビはびっくり仰天。
1時間後、症状がおさまった館長のスギさんから、
「こっち」の世界の日本という国の、すごくメジャーな国土病、「花粉症」の仕組みと注意点を、みっちり勉強させられましたとさ。
「『透明』と『涙の理由』なら、たしか過去に書いてるんだわ……」
ところで「透明な」涙って、なんだろな。
透明を強調したいのかな。
某所在住物書きは天井を見上げて、配信されたお題をどう扱うべきか苦慮している。
今回のお題に他の文字をくっつければ、「不透明な涙」だの、「透明な涙型の宝石」だののハナシに持ち込むはできる。
なんだ「不透明な涙」って。
人間の涙は透明だから、他の生物のそれか。
「……涙型の宝石が無難かなぁ」
物書きは呟いた――で、その宝石をどうするのだ。
――――――
今回のお題は、「透明な涙」だそうです。
逆に透明「じゃない」涙って、どんな涙でしょう。
なんなら、わざわざ「透明」と前置くような涙って、どんな涙でしょう。
あれこれ考えた物書きが、苦しまぎれに、こんなおはなしを思いつきました。
前回投稿分の、裏側で起こっていたおはなし。
「ここ」ではないどこかの世界に、「世界線管理局」という厨二ファンタジーな組織がありまして、
そこでは、滅びた世界からこぼれ落ちた、チートアイテムだの魔法の道具だのを、
他の世界に流れてって、そこで悪さをしないように、回収・所蔵しておく仕事もしておりました。
ところで管理局の経理部には、魔法の道具を作るのが得意なエンジニアさんがおりまして、
ビジネスネームを、猫の無毛種になぞらえて、スフィンクスといいました。
「よぉし!出力、最大!」
経理部のスフィンクス、法務部の某部署に頼まれて、「透明な涙」の形をした魔法の宝石を、まさに、精製している最中。
「俺様の至宝、日向夏よ、水晶文旦よ!
この赤と青の、透明な涙型の宝石に、『熱』の概念エネルギーを注入するのだッ!」
スフィンクスが上機嫌に、なにやらカッコイイことを言いますと、
24と1個の、涙型……に見えなくもない、しらぬいタイプの形のミカンたちが、
美しい日向夏と、水晶の文旦とを掲げます。
日向夏と水晶の文旦は、たちどころにミカンの色に光り輝いて、ちゅぴーん!
透明な涙の形をした、赤い宝石12個と、青い宝石12個に、エネルギーを注入し始めたのです!
何故でしょう。お題のせいです。
何故でしょう。法務部某部署が、「こういうアイテムを作成できないか」と依頼してきたのです。
すなわち、赤い透明な涙は周囲の「熱」や「あたたかさ」の概念を吸収して溜め込んで、
青い透明な涙は「寒」や「つめたさ」の概念を吸収して溜め込んで、
それらをパリン!壊したときに、中のエネルギーを開放して、「あたたかい何か」なり、「つめたい何か」なりを生成するのです。
要するにオヤジギャグの「寒さ」を溜め込んで、物理的に「氷」を作る、みたいな。
あるいはガチギレ局員の「熱量」を吸い取って、一気にイライラをノーマルに戻す、みたいな。
「名付けて、『熱量保存の宝石』と、『冷気保存の宝石』!……まぁ、まんまのネーミングよな」
日向夏と水晶の文旦の、美しい光線がおさまって、合計24個の魔法宝石、その試作品のできあがり。
スフィンクスも満足の仕上がりです。
「さてさて。依頼主のところに持ってくか」
合計24個の宝石を、しっかり宝石箱に敷き詰めまして、依頼主のもとへ移動します。
試作品なので、お代は応相談。ちゃんと成果を上げれば貰うし、改善点が出てくれば値引きします。
「ひとまず、あいつらに1回でも使ってもらわにゃ、何とも言えねぇわな」
はてさて、熱量と冷気を吸い取り溜め込む宝石を、法務部の連中、一体何に使うやら。
経理部のスフィンクスが、依頼主であるところの、法務部執行課、実働班特殊即応部門なる部署の、オフィスをトントン、尋ねますと……?
「まったく、部長もカラス査問官も!ふたりして特応の備品を壊して! 修理と再申請と補充に、いくらかかると思っているんですか!」
「だって部長が、」
「そもそもコイツが!」
「私語厳禁!!」
そうです。ここで、前回投稿分と、繋がるのです。
なにやら大きなケンカでもしたらしく、備品ごっちゃごちゃ、設備バラッバラ。
これは修理と補充と新調が大変そうです。
ところでスフィンクスが作った「透明な涙」の形の赤い宝石、まさしく「ガチギレなケンカ連中の熱量を吸い取る機能」がありまして……
「丁度イイじゃん。使ってみよっと」
ヒヒヒ。あいつら、ゼッタイ驚くぜ。
イタズラに笑うスフィンクス、赤と青の宝石のうちの、赤の1個を取り出して、さっそく、ケンカの真っ只中の膨大な熱量に向けてみます。
赤い透明な涙型の宝石は、たちどころにガチギレの「熱」の概念を吸い取って、
法務部でギャーギャー騒いでる連中を、静かにしてしまったとさ。
「『あなた、野本へ』、『穴、田之本へ』、『あなたの元へ』。……あんまり漢字変換可能なひらがなのうまみが無いな……」
去年や一昨年と違うお題に差し替えられて、これで何連続だろう。
某所在住物書きはスマホの漢字変換予測を見ながら悩んでいた。 面白い変換が思いつかないのだ。
「第一印象の、他のネタをなるべく考えるようにはしてるけどさぁ……」
仕方無いときは、その「第一印象」で勝負するしか、ねぇわな。物書きはぽつり。
考え過ぎると、ドツボだ。15時投稿コースだ。
――――――
前回投稿分の続き物。
「ここ」ではないどこかの世界に「世界線管理局」という厨二ちっくファンタジーな組織があり、
世界と世界の円滑な運行や交流を支援するため、
あるいは、いろんな世界から他の世界への密航、密入出を取り締まるため等々、等々で、
日夜、いろんな業務にはげんでおるのでした。
管理局は、どんな理由があろうと、どんな事情を持っていようと、
滅んだ世界の難民が、過剰に、他の世界に入ってくることを許しません。
「そこ」は、「そこ」に住む者の世界です。
「そこ」は、「そこ」の独自性を、保つべきです。
制限無く難民を、別の世界で受け入れてしまうと、いずれ、難民の受け入れ先となった世界は、「別の世界から来た」「別の世界の住人」で、溢れかえってしまうのです。
こんな団体方針の組織なので、
管理局をよく思わない個人、管理局と敵対する組織、なんなら管理局にテロ行為を計画する団体なんかは、多からず少なからず、おりまして。
世界線管理局は、そういう敵対組織とも、
日夜、攻防を繰り広げておるのでした。
そんな、敵対組織との攻防の最前線、
世界観の取り締まりの第一線の部署、
世界線管理局法務部、執行課実働班、特殊即応部門のオフィスを、ちょっと覗いてみましょう。
管理局の局員さん、あなたのもとへ、物語のカメラをズームイn
「今日という今日は許さん!!」
「へ〜、許さないんだ、どう許さないのかなー。
ねぇルブチョ、攻撃当たってないけど、どんな気持ち、どんな気持ち、ねぇ部長さ〜ん」
「部長を煽るな、カラス査問官!
あと部長!いい加減!落ち着いてください!!」
ズドドドド、ドギャギャギャギャ!
ひらぁりはらぁりの、やーいやーい。
おやおや。管理局の即応部門、なにやら内部で喧嘩をしている様子。
部門の部長さんがカンカンで、ガチギレで、部下に本気で魔法をブチかましています。
「管理局がどれだけ多くの敵を抱えてるか、キサマも分かってるだろう!」
部長のルリビタキが、部下のカラスにズドドドド!光の弾を撃ちまくります。
「何故その管理局に、『あの世界』の一般市民を引き込んだ!? 答えろカラス!!」
この「カラス」こそ、前回の「藤森の友人」。
「付烏月 殻花」とは東京で生きるための仮の姿。その正体は世界線管理局の局員だったのです!
「『図書館』側のご意向でーす」
部長の攻撃をことごとく、ひらぁりはらぁり避けまして、時折ちょっかいなど出してるのが、付烏月ことカラス査問官。
「全世界図書館」とかいう別の組織と共同で建てた図書館に、法務部から出向しておりまして、
今日は部長に、「藤森と高葉井を図書館に引き込む予定だ」と、報告に来たのです。
「そもそも今までも、ウチの図書館、管理局と機構と東京の市民さんを満遍なく、公平性を保つために雇用し続けてたじゃん。
何を今更。なにをいまさらぁ〜。ねぇルブチョ」
ほらほら部長、攻撃、当たっていませんよ。
付烏月ことカラス、ムキになってる部長の頭が疲れて疲れて冷えるまで、煽ってちょっかい出す魂胆。
楽しんでいるのではありません(ホントかな)
部長のためを思っての行動です(ホントかな)
カラスとしては、とても、心苦しいのです
(そのわりには、すごく、楽しそうなのです)
ズドドドド、ドギャギャギャギャ!
ひらぁりはらぁりの、やーいやーい。
部長のルリビタキが光の弾を撃ちまくり、
付烏月ことカラスが避けるので、オフィスの備品が代わりに被弾します。
他の部下は淡々と、粛々と、大事な備品を避難させたり、他の部署からのお客さんを「あー、今はちょっと都合悪いですねー」したり。
部長のイチバンの部下、ツバメのもとへカメラを向けると、おやおや、何か光の縄を……?
「いい加減!落ち着けと!言ってるでしょう!!」
急展開。ツバメが管理局収蔵のチートアイテムでもって、ぐるぐるぐる!!
ガチギレルリビタキとイタズラカラスを、個別に正座スタイルで、縛り上げてしまいました。
「まったく、部長もカラス査問官も!ふたりして特応の備品を壊して! 修理と補充と買い替えで、経理にいくら申請すると思っているんですか!」
「それは部長が、」
「そもそもコイツが!」
「私語厳禁!!」
「「はい」」
比較的静かになった実働班特殊即応部門のオフィスには、30分程度、ツバメの説教が響き続けておったとさ。 おしまい、おしまい。
「単語でも文章でもないお題ってのは、ずいぶん珍しいような気もするわな」
そっと、そっ閉じ、卒倒、出そっと、ソットーリオ。 ひらがな表記であれば漢字変換で、お題をどうとでもイジれる。
俺の十八番よな。某所在住物書きは珍しく、配信されたお題に小さく笑った。
「去年の14日配信は、『どうして』だった」
ところで、そっとーりお、なる料理は初めて知った物書きである。
イタリアの油漬けらしい。美味いのだろうか。
――――――
最近最近の都内某所。
お題回収役を藤森といい、丁度、仕事を終えて自分のアパートに帰ってきたところ。
2024年度はこの藤森にとって、騒動に騒動が重なった年度で、
職場に元恋人が就職してきたと思ったら、ヨリを戻そうと藤森を探し始めて、
最終的に、藤森の友人に計略を仕掛けられ、逃げるように退職、退散していった。
一見略着、大団円と思っていたところ、
今度は、藤森の待遇をよく思わない総務課係長が、藤森の仕事に対してイヤガラセをしてくる始末。
もちろん、解決した。
「来年度は、平和な年度であってほしいな」
2023年度も散々な年度だった。
藤森は一昨年の惨状も思い出す。
アレがあって、ソレがあって、そうだ自分の高葉井をオツボネ係長がチクチクしたのも、たしか一昨年――左遷させられた彼女は今頃どうしているだろう。
「ん?」
そんなこんなで、自分のアパートの郵便受け・配達受けコーナーにたどり着いた藤森。
「郵便?」
自分の部屋の番号が書かれたポストに、自分の前々職の図書館から、茶封筒が届いていたのに気付いた。
差し出し担当者の、名前を確認すると、
「『付烏月 殻花』……ツウキさん?」
すなわち、上記の「元恋人が就職してきたときに、計略を仕掛けて恋人を退散させてくれた」、「藤森の友人」からであった。
「付烏月」と書いて「ツウキ」と読む彼は、
去年の暮れに、藤森の職場から離れて、藤森の前々職であるところの図書館に転職した。
彼が今頃、藤森に何の用事だろう。
ビリビリビリ。 その場で茶封筒を開ける。
中には白紙の履歴書と、その履歴書に貼られた弱粘着タイプのメモ用紙。
メモにはこう書かれていた。
『お前の後輩ちゃんは預かった!
てことにしたいから、図書館に戻ってきて
*´ω`*)ノシ マッテルヨ〜 付烏月』
「……」
ここでお題回収。
藤森は、そっと、封筒を閉じた。
――時間が過ぎ、場所も変わって、
藤森は藤森自身の部屋に戻ってきた。
「付烏月さん。お久しぶりです」
すぐに手に取ったのはスマホである。付烏月の番号は知っていた。
「アパートで封筒を受け取ったが、その、アレは一体、どういう意味で……?」
『そのまんまの意味だよん』
電話の向こうの友人は、相変わらずの明るい声で、メモの内容を嘘かドッキリのように錯覚させる。
ただ、付烏月の更に向こう側が、どうにもこうにも、騒がしい。
轟音と怒声と誰かの叫び声とで、付烏月が居るであろう空間は混沌としている様子。
『お前の後輩ちゃんに、後輩ちゃんの推しがウチの図書館に来てる風景の画像を見せたら、
後輩ちゃん、「このハイクオリティーなレイヤーさん、付烏月さんの職場に来るの?!」って』
「はぁ」
『職場だけ違う同僚だから、ウチの図書館で仕事してたら会えるかもよーって伝えたら、
「藤森先輩次第で転職する!!」って』
「は……」
『とゆことで、後輩ちゃんをウチで預かりたいので、お前も前々職の図書館に戻っといで』
「その前に、あなたの向こう側が随分騒がしいが、何がどうなって」
『気のせいだよん』
じゃ、イイ返事、よろしくねー。
付烏月が明るい声で通話の終わりを告げるその奥で、相変わらず混沌は続いている。
今日という今日はゆるさん!覚悟しろ!
部長!!落ち着いてください!!
はなせッ!!離せ!こいつのバグった思考回路を叩き直してやる!!
あなたが本気出したら!叩き直すどころか!叩き壊すでしょってェ!!
ぎゃーぎゃー、ずどどど、ちぴゅーん。
「なんなんだ。いったい……」
2度目のお題回収。藤森は混沌音声飛び交う通話の終話ボタンを、そっと、タップ、タップ。
付烏月が自分と通話している間、彼の周囲で何が発生していたのか、藤森は理解できない。
ただ確実なのは、藤森の後輩の推しによく似たコスプレイヤーが付烏月の職場に居て、
そのレイヤーに会うため、後輩が藤森の前々職に転職しようとしていることである
……たぶん。