「まぁ、まぁ。ベタなハナシよな。『不変は無い』」
伝統工芸とか郷土料理とか、「変わらないように」を目標にしてそうな分野の方々のことは、どうなるんだろう。某所在住物書きは配信の通知文に8割9割賛同しつつ、残る1割2割の「変わらないものはない『わけではない』」を探してネットをさまよっている。
ことに、菓子や料理の世界では、「味変わったね」より、「いつもと同じ美味しさだね」を尊ぶ界隈も、ありそうで、そうでもなさそうで。
「……無いと断言されると反例探したくなるやつ」
何か無いかな。物書きは諦め悪く、ネットの中を探し続ける。
――――――
職場の先輩が、なんでも年末に捻挫だか肉離れだかを起こして自宅のアパートで在宅ワークしてる、
って聞いたから、日頃の恩だの借りだのもあるし、私もちょっと急だけど、リモートの申請出して先輩のアパートに様子を見に行ってみたら、
先輩は普通にお昼ご飯の準備してるし、歩く時どっちかの足をかばってる様子も無いし、ベッドの上では「エキノコックス・狂犬病対策済」の木札を首からさげてる子狐がヘソ天してるし、
本人に「どしたの」って聞いたら、「治った」、「多分気のせいだった」って言われた。
捻挫と肉離れって簡単に治るもんじゃないと思う。
どしたの。何があったの。
「そもそもお前、どこから私が『足を捻った』なんて情報拾ってきたんだ」
せっかく見舞いに来てくれたからって、先輩はお得意の、ちょっと低糖質なパスタを出してくれた。
「隣部署の宇曽野か?まさかこのアパートの管理人じゃないだろうな?稲荷神社の狐とか冗談はよせよ」
元々は、100g食べたって糖質30gにも満たない、バチクソ優秀な低糖質のやつを使って作ってくれてたやつだ。
3週間くらい前、たしか12月9日近辺のことだと思うけど、製造元がその乾燥パスタを「おいしくリニューアル」して、塩分量がバチクソ多くなっちゃったから、今は、他のパスタよりは糖質少なめって程度の、全粒粉パスタが、代用品として使われてる。
低糖質麺の、低塩分なパスタ。需要はニッチ。
売るためには時々「おいしくなってリニューアル」をしなきゃいけない。
相当「いや、ウチはこの味で/この形で/この方法でずっと通すんだ」って強い信念が無きゃ、
商業品で、変わらないものは、無いんだと思う。
「宇曽野主任が、『お前の先輩、昨日の夜、俺の目の前で足腰捻って、痛そうにしてたぞ』って」
わかめスープの素と小さくされたミンチ肉、それから少しの大葉とアマニ油で、たらスパみたいな風味になってるパスタを、くるくる。
「てっきり私も主任も、捻挫とか、肉離れとかだと思ってたのに。来てみたらコレだもん」
プリン体少ないし、塩分ちょっとで済むし。たらスパモドキはなかなかにアリだと思う。
「うん。先輩の料理、変わんないね。おいしい」
「これでも色々、変更箇所は有るんだがな」
野菜じっくり煮込んだらしいベジスープをよそいながら、先輩が言った。
「ところでお前、油揚げ食うか?諸事情で大量に手に入ったんだが」
「油揚げ is なんで」
「お前と同じく見舞いに来たやつが、昨日居てな。約200年、変わらない製法で、伝統を守って作られているそうだ。炊き込みご飯が美味かった」
「新人ちゃん?」
「『稲荷神社の狐』と言ったら、お前どうする」
「はいはい冗談冗談。で?」
「子狐触るか?」
「さわる」
「『クリスマスの過ごし方』?イブ前から足腰捻挫して、ベッドで準寝たきり状態だわ」
早く来い来いお正月。どうせ大晦日まで急性期。某所在住物書きはスマホを見ながら、ぼっちのクリスマス翌日に悪態をついた。
早めの、かつ、◯年ぶりの冬休みは、ぼっちでスマホくらいしか楽しみが無く、ただリア充どもへのネチネチを吐き続ける。
「こんな中で、クリスマスネタなんざ考えつくかっての。チキショウ。腹いせに『クリスマスに捻挫しました』のネタ書いてやるッ」
八つ当たりのターゲットにされた物語のキャラクターには、酷いとばっちりである。
――――――
あと数日で大晦日、お正月。皆様ご予定いかほどでしょうか。
お題配信から十数時間、もうクリスマスの「翌日」になってしまいましたが、まぁまぁ、こんなおはなしをご用意しました。
12月25日のクリスマス、夜、都内某所。
某アパートの一室の、部屋の主を藤森といいますが、
物書きの理不尽な当てつけのせいで、ベッドで大人しく、地味な痛みに耐えておりました。
「おかしいな。強く捻ったつもりは、ないんだが」
ごくごく軽度に、足と腰の筋肉だか筋だかを損傷してしまったのです。歩くとちょっと痛いのです。
藤森はぼっちで、休日も平日も仕事を優先に行動するようなシゴトムシでしたので、
ぶっちゃけ、クリスマスに特定の場所への予約なんて、特定の人との約束なんて、たったのひとつも入れていなかったので、
25日はただ単純に、おとなしく、RICE処置をそこそこ忠実に守ってベッドで安静にしておったのです。
そこにひょっこり現れたのが、言葉を喋る不思議な子狐。お得意様の藤森に不思議なお餅を売りに来る、稲荷神社在住の子狐です。
随分唐突ですね。気にしてはなりません。
随分トンデモ展開ですね。気にしてはなりません。
コンコン子狐のカワイイは、全部を解決するのです。
この前、9日前、先週の12月17日だって、この子狐が藤森の風邪を、不思議な不思議なお餅のチカラで、バッチリすっかり1日で、キレイに治してしまったのです。
「おとくいさん、ごはん、ごよーいできました」
子狐コンコン、割烹着など着て三角巾もつけて、藤森のベッドに和食なお盆を持ってきました。
「おとくいさん、先に、お揚げさんの味噌コンニャク詰めと、お揚げさんの炊き込みごはん、どーぞ」
尻尾をビタンビタン振り回し、お耳をぺったん幸せに隠して、子狐は和食なお盆を藤森の膝の上に、
置こうとして、なんか無理だと結論付けて、とりあえずベッド近くのボックススツールの上に置きました。
「子狐。おまえ、いつもどうやって私の部屋に入ってくるんだ」
「おそと」
「それは分かる。外から、どうやって部屋に入ってくるんだ。防犯カメラは?ドアの二重ロックは?」
「キツネ、うそつかない。キツネ、おそとから、おとくいさんのおへやに来る。
お揚げさんどーぞ。おもちどーぞ」
「おい。やめろ。口に押し込もうとするな」
ぐいぐいぐい、ぐいぐいぐい。
寝たきりでごはんを食べられないであろう藤森に、ゴロッと大きな油揚げの巾着を、あるいは捻挫をたちどころに治してしまう不思議な不思議な煮込み餅を、そのまま食べさせようとする子狐。
自分で食う、大丈夫、ありがとう餅で窒息は正月の悪しきネタだから今はカンベンしてくれ。
藤森は必死に、なるべく子狐の好意を傷つけないように、お餅と油揚げ巾着を押し戻すのでした。
おしまい、おしまい。
「ぶっちゃけ、『イブの夜』っつったって、コレ投稿してるのイブの次の日の夕暮れだけどな」
まぁ、このお題が来るのは予想してた。某所在住物書きは自室でパチパチ、鶏軟骨の塩焼きを作り、ちまちま独りで食っている。
イブの夜をネタにしたハナシなど、その夜の過ごし方程度しか思い浮かばぬ――特にクリスマスイブの。
「他に『イブ』って何あるだろうな。イブって名前の人の夜とか?それとも某パラサ◯ト・イヴとか?」
3作目、PSPのやつ、俺は「3作目」と認めちゃいないが、レンチンバグには世話になったわ。
物書きは「イブ」をネット検索しながら、ぽつり。
……そういえばこの名前の鎮痛薬があった。どう物語に組み込むかは知らないが。
――――――
クリスマスイブだ。
東京に雪は無いし、しんみりできる雰囲気も無い。
ただ人が溢れて、あちこちLED電球だの液晶ディスプレイだので飾り付けられて、
良さげなホテルだの高めのレストランだのが賑やかになるだけ。
ストリートピアノでは、ちょっと気の早い誰かが某戦メリ弾いて、そこにバイオリンだかビオラだかが混じってる。
はいはい、カッコつけカッコつけ。
でも、すごく演奏が上手くて、つい聴き入って、なんか動画まで撮っちゃった。
雰囲気と顔が、ウチの職場の先輩と隣部署の主任さんに似てたけど、
主任さんはともかく、ピアノ弾いてるそのひとが、先輩である筈が無かった。
ついさっきまで一緒に居た先輩に、着替えして白百合の飾りを胸につけて、私に先回りしてピアノを演奏できる筈が無かった。 結局、誰だったんだろう。
「人間って、世界に自分に似てるひと、3人居るっていうじゃん?それだったんじゃないの?」
ホテルでも高めのレストランでもない、ただの、どこにでもある牛丼屋さん。
そこで待ち合わせて、一緒にちょっと高めのチキンカレー食べようってハナシをしてた元執筆仲間に、
ここに来るまでにこんなことがあって、
って話題を出したら、「もしかして:3人のうちの1人」って言われた。
「で、その『本物の』先輩さんとは、どういう経緯で今日会って?」
「クリプレ貰った」
「まじ?」
「ほうじ茶製造器もとい茶香炉。ずーっと昔、数ヶ月前、『処分しちゃうくらいなら私にちょうだい』って先輩に言ってたやつ」
「ごめん知らない」
「つまりアロマポットのお茶っ葉版」
はぁ。左様で御座いますか。
執筆仲間ちゃんはキョトンとして、小さなため息ついて、すぐカレーをスプーンでパクリ。
私がバッグから、厚紙製の小箱を取り出してテーブルに置くのを、それとなく見てる。
「だいたいなんでも、ティーキャンドルの熱で焙じてほうじ茶風にできるんだってさ」
先輩は紅茶とかブチ込んでた。香炉を見る仲間ちゃんに、私は補足した。
「すごく昔だったの。『私にちょうだい』って。
……意外と覚えててくれてたんだな、って」
別に深い意味は無いけど。仲間ちゃんにつられてため息を吐く私を、仲間ちゃんはやっぱり、興味津々の目で観察してた。
「まんまアロマポット」
「だからアロマポットって言ったじゃん」
「買ってあんまり美味しくなかったクリスマスティーとか、入れたら仕事してくれるかな」
「ごめんその『クリスマスティー』分かんない」
「クリスマスに飲むお茶」
「だろうね。だろうね……」
「クリスマス、誕生日、多分バレンタインにホワイトデー、それからお年玉。……ハロウィンはプレゼントじゃねぇよな」
そもそも「プレゼント」を渡すタイミングって、1年の間に何度あっただろう。某所在住物書きはお題の通知文を見ながら、ふと考えた。
結婚記念日は知らない。告白記念日も考慮しない。
年中行事としてである。リア充は末永く爆発するのがよろしい。
「……プレゼント行事、冬に一極集中してる説?」
12月、2月と3月、1月。春と夏と秋のプレゼントは何があったか。物書きは記憶をひっかきまわして、
「あっ、母の日と、父の日……?」
自身の親にプレゼントのひとつも贈った記憶の無いことに気がついた。
――――――
最近最近の都内某所、某アパートの一室に、人間嫌いと寂しがり屋を併発した捻くれ者が、ぽつんとぼっちで住んでいる。
名前を藤森という。
日付がクリスマスイブに変わってすぐの頃、いわゆる「丑三つ時」まであと1時間といった真夜中、
その日の藤森は寝付けぬまま、前日立ち寄った常連の茶葉屋から貰った茶香炉を、それの入った厚紙製の小箱を、じっと見ている。
「新しい茶香炉、か」
福引きである。クリスマスセールのそれである。
会計税込み500円につき1回の、結果3度回すことになったガラガラで当たった3等賞である。
似たサイズ、別デザインの香炉を、藤森は既にひとつ、長い長い付き合いとして使用していた。
かまくらのように開いた穴に、ティーキャンドルをひとつ置いて、上の皿に茶葉を――主に日本茶をぶち込んで、葉に熱を入れ香りを出す(その過程でほうじ茶モドキが生成される)。
煎茶・抹茶とは違う、香炉特有の優しい甘香は、幾度となく藤森の精神的疲労を癒やしてきた。
そういえば、長く仕事を共にしている職場の後輩が、「この茶香炉」が欲しいと。
「新しい方を、くれてやった方が良いよな?」
新品の入った箱と、テーブルの上に佇む旧品を見比べて、ポツリ。
藤森は今年、後輩に大きな恩があった。
後輩の言い出しっぺによって、8年越しの恋愛トラブルが、めでたく解決したのだ。
夜逃げの算段も、粘着質な執着への恐怖も必要ない。
この平穏の功労者たる後輩が、7月の終わり頃、
当時まだ未解決だった上記トラブルを原因に、藤森が家財を整理し、この香炉も処分しようとした矢先、
茶葉から茶を淹れる習慣も無いのに、わざわざ「ティーバッグ買うもん」と駄々をこねて、「これ」が欲しい、と言ったのだ。
「大事な思い出だから」と。「他人に売っちゃうくらいなら私欲しい」と。
自分に茶香炉は、2個も必要無い。
後輩が以前欲しがっていたから、どちらかクリスマスプレゼントとして、くれてやるのも良い。
が、後輩が欲しがるのは、厳密にはどちらだろう。
模範解答は新品である。
背景を考えると旧品もあり得る。
「……あいつ本人に、選ばせれば良いか」
延々考え続けた藤森は、最終的にどちら、と決定することができず、
仕方ないので、今まで使っていた方の香炉をよくよく洗い、キャンドルの火で付着したススをすべて除き、綺麗に乾かした。
あとは朝になってから、プチプライスショップかどこかで、良さげな小箱を買って収めれば良かろう。
「12月22日は冬至。冬至といえば、カボチャかゆず。まぁ、予想通りよな」
空ネタ、天候ネタ、エモに恋愛に年中行事。
それらでほぼ出題の過半数を占めているだろうこのアプリである。
やっぱりな。某所在住物書きはスマホの通知文を見ながら、ぽつり。
「まぁ、予測可能でも、じゃあそれをお題にしてすぐハナシ書けますかっつーと、別だけど」
「ゆずの香り」ねぇ。物書きはため息を吐く。
ゆず湯くらいしか思い浮かばないが、お風呂シーンなど、誰が求めようか。
――――――
最近最近の都内某所、最低気温0℃な冷え込みの某自然公園を、
藤森という雪国出身者が子犬の日課よろしく、
コンコン子狐にハーネスとリードをつけて、散歩というかマラソンというか、まぁまぁ、しておりました。
藤森のアパートのご近所に、狐住まう稲荷神社がありまして、
子狐はその神社の奥様がいとなむ、茶葉屋の看板狐。
藤森は茶葉屋の常連。お得意様なのです。
藤森がこの茶葉屋に、「冬至限定品のゆず餅とゆず茶、美味しかったです」と、てくてく挨拶に向かったところ、
藤森が来るのを知ってか知らずか、コンコン子狐、ハーネス付けてリードも付けて、「エキノコックス・狂犬病対策済」の木札もぷらぷらさげて、お散歩装備でスタンバイ。
ところでハーネスの胴部分、2次元コードとお店のロゴと、「期間限定!稲荷神社のゆず茶在庫残りわずか」なんてプリントされてますが、気のせいかしらそうかしら……?
『丁度良かった』
茶葉屋の店主さん、言いました。
『ちょっとこの子と一緒に、お散歩に行ってきてくださらない?』
報酬は555円税込みの、5産地から選べる飲み比べお試しティーバッグセットだそうです。
――「おい、子狐、こぎつね!」
ぴょんぴょんぴょん、ぴょんぴょんぴょん!
コンコン子狐、リードをぐいぐい引っ張って、藤森をリードして、人間がいっぱい居る場所探して全速力。
飛んでいく勢いの子狐が、風をきるたび地を跳ねるたび、ふわり、ゆずの香りが周囲に咲きます。
きっと、ハーネスとリードに香り袋か何かで、細工が施されているのでしょう。
わぁ。宣伝上手、商売上手。
だって季節モノのゆず茶の在庫が残りわずか。
「そろそろ止まれ、休憩しよう!」
この藤森、日頃運動なんてしない頭脳派なもので、長距離走など冗談ではありません。
息が上がって、最高気温一桁の空気が、ダイレクトに肺に入ります。マーシレスに肺を冷やします。
子狐コンコン、足を止めてしまった藤森を、振り返って、見上げて、すごく不思議そうです。
だって子狐は疲れてないのです。まだまだ、へっちゃらなのです。
首を傾けて、反対方向にも傾けて、『おとくいさんは、一体全体どうしたのかしら』。
ゆずの香を振りまく子狐は、藤森をじっと観察して、別におやつを持ってる風でも、それを子狐にくれる風でもなかったので、
くるり。 全速力の突撃を、再開しました。
「止まれと、言っているだろう!」
ぴょんぴょんぴょん、ぴょんぴょんぴょん!
コンコン子狐のゆずの香りと、それに引っ張られる藤森の懇願が、最低気温0℃な冷え込みの某自然公園に溶けてゆきます。
「こぎつね!」
悲鳴と香りが、良い具合に宣伝効果になったか、
その日で稲荷神社近くの茶葉屋の、冬至限定品のゆず茶は、無事すべての在庫を捌き終えましたとさ。
おしまい、おしまい。