「クリスマス、誕生日、多分バレンタインにホワイトデー、それからお年玉。……ハロウィンはプレゼントじゃねぇよな」
そもそも「プレゼント」を渡すタイミングって、1年の間に何度あっただろう。某所在住物書きはお題の通知文を見ながら、ふと考えた。
結婚記念日は知らない。告白記念日も考慮しない。
年中行事としてである。リア充は末永く爆発するのがよろしい。
「……プレゼント行事、冬に一極集中してる説?」
12月、2月と3月、1月。春と夏と秋のプレゼントは何があったか。物書きは記憶をひっかきまわして、
「あっ、母の日と、父の日……?」
自身の親にプレゼントのひとつも贈った記憶の無いことに気がついた。
――――――
最近最近の都内某所、某アパートの一室に、人間嫌いと寂しがり屋を併発した捻くれ者が、ぽつんとぼっちで住んでいる。
名前を藤森という。
日付がクリスマスイブに変わってすぐの頃、いわゆる「丑三つ時」まであと1時間といった真夜中、
その日の藤森は寝付けぬまま、前日立ち寄った常連の茶葉屋から貰った茶香炉を、それの入った厚紙製の小箱を、じっと見ている。
「新しい茶香炉、か」
福引きである。クリスマスセールのそれである。
会計税込み500円につき1回の、結果3度回すことになったガラガラで当たった3等賞である。
似たサイズ、別デザインの香炉を、藤森は既にひとつ、長い長い付き合いとして使用していた。
かまくらのように開いた穴に、ティーキャンドルをひとつ置いて、上の皿に茶葉を――主に日本茶をぶち込んで、葉に熱を入れ香りを出す(その過程でほうじ茶モドキが生成される)。
煎茶・抹茶とは違う、香炉特有の優しい甘香は、幾度となく藤森の精神的疲労を癒やしてきた。
そういえば、長く仕事を共にしている職場の後輩が、「この茶香炉」が欲しいと。
「新しい方を、くれてやった方が良いよな?」
新品の入った箱と、テーブルの上に佇む旧品を見比べて、ポツリ。
藤森は今年、後輩に大きな恩があった。
後輩の言い出しっぺによって、8年越しの恋愛トラブルが、めでたく解決したのだ。
夜逃げの算段も、粘着質な執着への恐怖も必要ない。
この平穏の功労者たる後輩が、7月の終わり頃、
当時まだ未解決だった上記トラブルを原因に、藤森が家財を整理し、この香炉も処分しようとした矢先、
茶葉から茶を淹れる習慣も無いのに、わざわざ「ティーバッグ買うもん」と駄々をこねて、「これ」が欲しい、と言ったのだ。
「大事な思い出だから」と。「他人に売っちゃうくらいなら私欲しい」と。
自分に茶香炉は、2個も必要無い。
後輩が以前欲しがっていたから、どちらかクリスマスプレゼントとして、くれてやるのも良い。
が、後輩が欲しがるのは、厳密にはどちらだろう。
模範解答は新品である。
背景を考えると旧品もあり得る。
「……あいつ本人に、選ばせれば良いか」
延々考え続けた藤森は、最終的にどちら、と決定することができず、
仕方ないので、今まで使っていた方の香炉をよくよく洗い、キャンドルの火で付着したススをすべて除き、綺麗に乾かした。
あとは朝になってから、プチプライスショップかどこかで、良さげな小箱を買って収めれば良かろう。
12/24/2023, 7:55:52 AM